劇場公開日 2014年4月18日

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「シェイクスピア+チェーホフ」8月の家族たち かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シェイクスピア+チェーホフ

2024年3月9日
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大ヒット戯曲の映画化作品。注目すべきは、キャスティングされた役者の顔ぶれである。メリル・ストリープ、サム・シェパード、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、ジュリエット・ルイス、クリス・クーパー、ベネディクト・カンバーバッチ...なんという豪華な布陣だろう。プロデューサーのワインスタインは、メリルの代わりにジュディ・デンチの、ジュリアの代わりにニコール・キッドマンのキャスティングを推したらしいのだが、原作者のトレイシー・レッツ曰く、あくまでもアメリカの家庭を想定して書いた戯曲なので、アメリカ人俳優の起用を強く求めたらしいのだ。

物語はオクラホマ州のオーセージ、荒野に佇む一軒家が舞台になっている。そう、マーティン・スコセッシ監督『キラーズ・オブ・フラワームーン』も同じオーセージが舞台だった。元々ここに住んでいたネイティブ・アメリカンを懐柔し排除していった白人の黒歴史が刻まれた土地である。時代はあくまでも現代なので、お手伝いさんとして雇われたジョナ以外ネイティブの俳優さんは出演していない。しかし、夫亡き後家の実権を握るバイオレット(メリル・ストリープ)はジョナのことを“インディアン”と呼んで憚らない根っからの人種差別主義者なのである。

そんなバイオレットの夫ベバリーが夫婦喧嘩の後失踪、湖で自殺体として発見される。父の葬儀のために久々に集まった三姉妹と叔母の家族たち。昔話に花を咲かせるのかと思いきや、亡き父のスキャンダル(近親相姦)や“三人姉妹”がおかれている閉塞的な状況が、精神安定剤中毒のバイオレットによって次々と暴露されていく。原作者トレイシー・レッツとしては、おそらく演劇界の大御所シェイクスピア+チェーホフの線を狙ったのではないだろうか。どこかで観たような既視感に襲われるのは多分そのせいなのであろう。

本作シナリオの白眉は、登場人物がドツボにはまっていく様が繰り返されている点にある。言い換えるならば、遺伝子によって決定づけられた不幸とでも表現できるのかもしれない。バイオレットとその最悪な母親との険悪な関係はバイオレットと娘バーバラ(ジュリア・ロバーツ)、さらにバーバラとその娘ジーンの関係に代々受け継がれ、父ベバリー(サム・シェパード)と叔母マティ・フェイの近親相姦関係は、三女アイビーとマティの息子チャールズ(カンバーバッチ)の関係と見事にカブルのである。両親同様、バーバラは夫(ユアン・マクレガー)の(若い娘との)浮気が原因で別居中。次女のカレン(ルイス)は父親ほどに歳が離れている離婚経験者(3回)でギャル大好きなダラチン男と婚約中なのだから。要するに近親者や浮気男に惚れてしまう家系なのてある。

血は争えないとは云うけれど、バイオレットが娘たちの秘密を見破ることができた理由は、いわば自分が過去に経験してきたことと同じことをただ娘たちが繰り返していたからに他ならない。そのDNAに決定づけられた閉塞的運命は、滑稽さを通り越してむしろ残酷にさえ思えてくるのだ。娘たちに悪態のかぎりをついた当然の報いだろうか、認知症を発症しつつあるバイオレットは娘たちに愛想をつかされ一人オーセージの屋敷に取り残されるのである。頼るは自分たちの先祖が根絶やしにしかけた民族の末裔だけという、何とも皮肉な運命が待ち受けていることもわからずに.....

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かなり悪いオヤジ