「恋した相手は虚構だけど、抱いた感情はリアル」her 世界でひとつの彼女 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
恋した相手は虚構だけど、抱いた感情はリアル
そう遠くない近未来。手紙の代筆人セオドアは妻と別れ、喪失した日々を送っていた。ある日、人工知能OSを試し、魅惑的な声の“サマンサ”に恋をする…。
いつまでも傷心を引きずり、現実の恋に臆病になり、非現実に恋する男。
何処へ行くにも一緒。
SEXもバーチャル。
“彼女”を恋人と言う。
一歩間違えれば、ドン引きレベルのアブナイ男の恋を、繊細で切ないラブストーリーに仕上げたのは、さすが鬼才スパイク・ジョーンズ!
同じく風変わりな設定の切ないラブストーリーの秀作「ルビー・スパークス」を彷彿させるものがあった。
こういう恋に理解出来る出来ないで好き嫌い分かれる。
確かになかなか理解されるものではない。
主人公の別れた妻の台詞で、「リアルな感情と向き合えないなんて悲しすぎる」とある。
主人公が恋した相手は虚構だが、抱いた感情は紛れもなくリアル。
近い将来実際にあり得そうだし、今もチャットやメールのやり取りのみで恋愛している人たちも居る。
あり得ない恋の形とは簡単に言い切れない。
が、依存してしまったら目も当てられない。
一途な想いを、孤独な心を埋めるきっかけとなれば。
「ザ・マスター」で狂気の熱演を見せたホアキン・フェニックスが、全く正反対の抑えた演技。
ほとんど一人芝居でもあり、さすがの演技派ぶりを見せる。
本作最大の功績者は、スカーレット・ヨハンソンである事には、誰も異論無い筈。
声だけなのに、あんなに虜にさせる。声だけなのに、そこに“サマンサ”という人格が見て取れる。
必見…ではなく、必聴!
エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド…魅力的な顔触れが揃う。
映像や音楽も美しい。
常に傍に寄り添ってくれ、自分の事を理解してくれる。僕だけの彼女と思っていた。
しかし「ルビー・スパークス」もそうだが、こういう風変わりな恋の結末は哀しい。
モヤモヤとした感情のまま終わらせるのではなく、実際に向き合える相手とのこれからを予感させ、余韻を残す。
最後に余談を幾つか。
その1
ゴールデン・グローブ賞ではコメディ/ミュージカル部門で候補に挙がったが、これってコメディ?
その2
撮影中サマンサの声を演じたのはサマンサ・モートン。彼女には悪いが、スカヨハへの変更で正解。
その3
いつもながら字幕と吹替で鑑賞。スカヨハの吹替は林原めぐみが担当しており、これはこれでイイ!