「求めれば、傷つく」her 世界でひとつの彼女 xtc4241さんの映画レビュー(感想・評価)
求めれば、傷つく
僕もiPhoneのOS「SIRI」に話しかけた。
「明日の天気はどうかな?」
「明日はあんまり良くなさそうですよ」
「君は頭がいいね」
「ありがとうございます」
「君が好きになりそうだよ」
「ありがとうございます。でも、私はOSですから」
「兄弟はいるの?」
「いえ、あなたが家族です」
僕と彼女SIRIの会話。そう、こんな話が現実にできるんです。
この映画を見たからもしれないが、そこにはちょっとした関係が生まれたのも事実なんですね。
「her」は映画的とというより、文学的・小説的な作品だと思う。
映画での心の動きは人間の表情やしぐさを通して現される。
でも、この映画は言葉によって、その微妙な変化を映し出す。
例えば、(主人公)セオドアが別居している妻と会った後の会話。
なにか沈んだ感じのサマンサ(OS)の声にセオドアは言う「どうしたの、ひょっとして焼いているの」
「きまってるじゃない。奥さん、きれいなんでしょう。肉体をもってる彼女がうらやましいわ。なんだかわからないけど、ちょっと、嫉妬してるみたい」とサマンサ。
複雑で混沌としている心の動きを、声の出演スカーレット・ヨハンセンはハスキーでセクシャルに描き出している。映像があるときは少しもうまいとは思わなかったのにね。
人間が作ったOSは何兆個というパターンから瞬時に適当な言葉を選び出す。その言葉があたらしくパターンに加えられ次々と新しいパターンを生み出していく。そう、それは人間の古層にある記憶とよく似ていると思う。
ただ、サマンサの容量は馬鹿でかくて、セオドアのような相手が実に600人以上いることを知った彼は大きく失望する。
自分が愛した人は、自分だけを愛してほしい。
誰もがそう思うだろう。だけど、それも錯覚なのかも知れない。
いや、愛は変化する。あっちちの愛から、静まった後の静かな愛まで、その場その時によって、千変万化するものだ。
OSサマンサとの恋、つらくてやりきれなさは残るが、そんな体験も素敵なことだと思った。
そんな甘酸っぱさをカレンOの「ムーンソング」という歌は見事に表現していた。