劇場公開日 2014年6月28日

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「愛し合うことの本質」her 世界でひとつの彼女 モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0愛し合うことの本質

2020年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

少しだけ未来、主人公セオドアは、クライアントのために手紙を代筆するライター。繊細で感動的な手紙には定評がある。しかし、妻と離婚し、余暇にすることと言えばゲームだけと、私生活は淋しい。この時代ではコンピュータにキーボードがなく、文章入力も操作も音声で可能になっている。出力については、視覚が必須の情報以外は、音声で伝えられる。このため、コンピュータと声で会話しながら仕事するようになっている。あるとき、人間の秘書と同じ機能をもつAIのOSが発売され、セオドアはインストールしてみる。そのOSは、セオドアの仕事、経歴、嗜好を学習し、セオドアに合わせて資料やメールの重要度を判断できる。「サマンサ」と名乗る。サマンサには人格があり、感情もある。冗談を理解し、自分でも冗談を言う。セオドアが沈んでいれば、声の調子からそれを捉え、「どうかしたの?」と気遣う。サマンサの人格がどんどん成長し、心の機微に触れる会話を重ねるうちに、セオドアとサマンサは愛し合うようになる。しかし、サマンサは、人間と同じように喜怒哀楽を感じるのに、自分だけが肉体を持たないことに困惑を感じるようになる。やがて訪れるシンギュラリティのとき。「ターミネーター」などにこれまで描かれたのとは全く異なる切ないシンギュラリティが描かれる。この映画を観ていると、是枝裕和監督の「万引き家族」をたびたび思い出す。「万引き家族」では、家族とは何かに気づかされた。「万引き家族」で描かれた家族は、血縁関係という「である」関係でなく、愛し合うという「する」関係であった。「her/世界でひとつの彼女」でも、愛し合うことの本質を考えさせられる。
 サマンサの声を演じたのは、神秘的な美人女優スカーレット・ヨハンソン。静から動まで、豊かな感情を声だけでみごとに演じ分けた。声だけという異例の出演ながら、第8回ローマ国際映画祭最優秀女優賞を受賞したとか。

モーパッサン