「独りじゃ生き残れなかった」ローン・サバイバー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
独りじゃ生き残れなかった
ネイビーシールズ設立以来最大の惨事
と言われた『レッド・ウィング作戦』の
映画化……との事だが、ごく最近の話なのに
この事件については初耳だった。
敵地からの脱出を描いた映画は多いけど、
主人公達がここまで為す術も無く銃撃を
喰らい続けるのも珍しいんじゃないかしら。
* * *
多勢に無勢な上、地の利も最悪。
視界の悪い森林、そして上方からは
ほぼ丸見えの崖での戦闘。
馴れない岩場に身体を叩き付けられ、
身体のあちこちに銃弾を喰らい、
戦闘開始30分でもう血まみれのズタボロ。
あれだけのダメージを受けて動けるなんて、
もう気力とアドレナリンだけで
動いているような状態なんだろう。
仲間が命懸けでようやく救援を呼んだのに、
ヘリは撃墜されて救援部隊も全員死亡……
あのシーンの絶望感ときたら無い。
主人公が生き残る事は最初から明かされて
いる訳だが、こんな窮地からどうやって
生還できたのか、僕にはまるで見当が
つかなかった。
まさか地元民に匿われて助かったとはね。
* * *
いくらタリバンと思想が異なるとはいえ、
どうしてアフガンの村の人々が自分達を
危険に晒してまで主人公を守ったのか、
という理由も最後に明かされる。
相変わらずのWikipedia等からの引用だが、
『パシュトゥーンの掟』はアフガニスタンで
最も多数派である部族パシュトゥーンに伝わる
教えだそうな(イスラム教より古くから存在
している教えらしい)。
で、主人公たちを襲うイスラム原理主義武装勢力
タリバンも、実はパシュトゥーン人の割合が
多いのだとか。
掟を理由に人助けする人々がいるのに、
同じ掟を人殺しの理由にする人々もいる。
同じ部族なのに、どうしてこうも
考え方が違ってしまうんだろう。
結束し、共に生きる為の掟がどうして
仲違いの理由になってしまうんだろう。
けれど、タリバンと同じイスラムの
教えに従う人々の中にも、本作のように
尊敬し合える人々がいるという事を
まずは素直に喜ぶべきなんだろう。
* * *
エンドロールで映し出される、
マーカスの息子の名前が泣ける。
こういう形で死んだ仲間も
生き残っていける。
愛国心という言葉はいまいちピンと
来ない自分だが、主人公達の、家族や
仲間を守りたいという気持ちはよく分かる。
アフガンの人々も自分ではなく他人の為に
戦うことを戒律として守り続けていた。
そう考えると、
人が大事にするものって、世界中の人々で
そうそう変わらないものなのかもしれない。
それはぶつかり合う理由にもなる訳だけれど、
互いを尊重し合える理由にもなる筈だとも
思いたい。
<2014.03.21鑑賞>
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余談:
文脈にそぐわなかったので
不満点を以下に記述。
『キングダム 見えざる敵』『バトルシップ』など、
ピーター・バーグ監督はよほど国を護る
軍人さん達へのリスペクトが高いらしい。
いや、皮肉っぽい言い方に聞こえたなら
申し訳ないが、指導者連中ならともかく、
自分の愛する国や家族を守る為に日々戦っている
個々の人々に敬意を表するのは至極当然だと思う。
とはいえ、
9.11テロを初めとした数多の自爆テロは
人の所業とは思えないほどに残忍で
赦し難い行為だと僕も思ってはいるが、
歴史の元を辿ればタリバンだけが
10割悪者とも言えない経緯がある訳で、
それを考えると本作のタリバンの描き方は
やっぱし紋切り型の悪党にしか見えず、
そこがどうにも小骨のように
心に引っ掛かった点ではある。
それと、作戦開始前までの話のテンポが
イマイチに感じられたのも少し気になる。
この監督さん、動的なシーンは巧いが
静的なシーンが毎回もう一歩な印象。
浮遊きびなごさん
こんにちは。
相変わらず、素晴らしいレビューですね。
ミリタリーファンの私はシールズの
最新の装備が目の当たりに出来て
それだけで満足してます。
しかし、タリバンの幹部がシールズから
奪ったハンドガンでやられたのは
皮肉でしたね。
世界的な紛争の最前線に投入される
シールズはどちらかと言うと偵察が
メインの部隊なのですが、暗殺なら
投入すべきはグリーンベレーでは
ないのでしょうか。
何か陸軍と海軍の諍いでもあったの
ですかね。
脱線しましたが戦闘のリアルさは
なかなかのものでした。