ローン・サバイバー : 映画評論・批評
2014年3月11日更新
2014年3月21日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー
正解なき決断、そして絶望的な闘いを強いられる戦場の不条理
これは「ブラックホーク・ダウン」がそうであったように、米軍の作戦が失敗に終わった実話に基づく異色作だ。ゆえに、その中身は娯楽映画のスリルや爽快感とはまったく異質で、ハードなリアリティを突きつめた戦場描写は凄惨を極めている。2005年、タリバン幹部の隠れ場所を偵察するため、アフガニスタンの山岳地帯に赴いた米国海軍の精鋭ネイビーシールズの隊員4名の物語。“たったひとり生き残った者”を意味する題名の通り、マーカス・ラトレル一等兵以外の3人が殉死した事件のプロセスを再現した本作は、想定外の事態が起こりうる戦場の極限状況を生々しく克明に映し出す。
4人の運命が暗転したきっかけは、作戦遂行中に遭遇した山羊飼い3人を拘束しながらも、生かすか殺すか迷った末に解放してしまったこと。軍規に照らせば正しい決断だが、それはタリバンの軍勢を呼び寄せ、最悪の事態を招く結果となった。では、子供も含む民間人を“殺す”べきだったのか? その問いの答えを見出すのは容易ではない。
そして映画はシールズ4人と百数十人ものタリバン軍との激闘になだれ込んでいくわけだが、日頃“多勢に無勢”や“孤立無援”の活劇をこよなく愛する筆者も、本作の凄まじさには戦慄を覚えた。無数の岩が散乱する急斜面の山肌で身を隠すことさえできず、退却に次ぐ退却を強いられる兵士たち。安易な玉砕をよしとしないシールズは仲間を信じ、満身創痍になるまで勇猛に闘い続けたため、不条理なまでに過酷な戦場の現実を思い知るはめになる。“転落する”というアクションの痛みを、これほど執拗かつ恐ろしく映像化した映画は記憶にない。主人公の前に意外な救世主が出現する終盤の展開も含め、信じがたい驚きに満ちた戦争実話である。
(高橋諭治)