「優しくなりたい。」ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
優しくなりたい。
つい先日「私立探偵 濱マイク」の感想を書いたと思ったら、
なんと今作にご本家のマイク・ハマーが出てきたので驚いた。
主人公の人生に何かと絡むエド役がその人。
アカデミー賞にもノミネートされた本作。
全編モノクロームで、モンタナ州からネブラスカを目指して旅に
出た父子の珍道中を描いている。
冒頭、高速道路をおぼつかない足取りでとぼとぼと歩く老人。
パトロール警官に、どうして高速道路を歩いているんだ?と
聞かれ、宝くじに当選したから貰いに行くんだ、と平然と答える。
次男が連れて実家に帰れば、口煩い母親がまたやったの!?と
この父親を責め立てる。あ~一度や二度じゃなかったのね^^;と、
この爺さん、もうきてるんだなぁ(表現が悪いですけど)と思った。
すでに自分の親も、いつこんな風に歩き出すか分からない運命を
抱えた年齢になってきているので、他人事とは思えない。
物静かながら眼光鋭い視線のB・ダーンは昔の面影を失わず、
淡々とこの老人を演じている。口喧しい妻のJ・スキッブなど、
その年齢でそんな下ネタ言うかよ!?と思うほどの熱演である。
代理キャスターとして働く兄と、お人好しで何かと不運続きな弟。
強固な決意の父親に同行することになった次男が、その道中で
父親の知らなかった過去に触れていく…というロードムービー。
昔の貸し借りをネタに次々と賞金にあり付こうとする親類や知人。
詐欺だといっても信じて貰えず、渡さないなら人でなし呼ばわり。
挙句には手紙を盗まれて、バーで詐欺をネタに大笑いされる始末。
過去の借金や(お互いにね)酒のツケなどを引き合いに、あさましい
やりとりが展開するが、どれもあぁ有りそう…と思うことばかり。
当選しても誰にも言わない方がいいのはこれがあるからだ。
私的に心に残ったのは、もちろん最後のシーンではあるのだが、
賞金を貰いに行った会社で、最後にふと息子が聞いた
「こういうことよくあるの?」に対し「たまにね。アルツハイマー?」
と受付女性が応える一コマ。残酷な運命を提示しながら、どこか
貴方がいるからお父さんは幸せね。と告げているような気がした。
運転を代わった父親の誇らし気な笑顔は、いつまでも胸に残る。
(現実を受け容れ、感謝し、恩返しをする、それができるうちに。)