「【”お前たちのためだ。何か遺したかったんだ。”と老いた父は言った。息子が老いた父をネブラスカへ連れて行く中で、若き日の父の人生を知り、ある恩返しをする様を温かいトーンで描いたロードムービーの逸品。】」ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”お前たちのためだ。何か遺したかったんだ。”と老いた父は言った。息子が老いた父をネブラスカへ連れて行く中で、若き日の父の人生を知り、ある恩返しをする様を温かいトーンで描いたロードムービーの逸品。】
ー アレクサンダー・ペイン監督の作品は、派手さは無いが家族の絆を温かい視点で描くスタイルが多いと思う。そして、私はそういう作品が好みである。
人間の家族を想う善性が、沁み出ているからである。ー
■モンタナ州に暮らす頑固老人ウディ・グラント(ブルース・ダーン)は、インチキの100万ドルの当選通知を信じ、ネブラスカへ賞金を取りに行くと言って高速道路を歩き出す。
それを見かねた二男のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、呆れながらも、ウディを車に乗せてネブラスカへの旅に父と出る。
そして途中で立ち寄ったウディの故郷で、知らなかった両親の過去に触れ、又、父の真意を知り、デイビッドは父に、ある恩返しをする。
◆感想
・今作で、ブルース・ダーン演じる頑固老人ウディ・グラントは、大酒飲みで妻からも小言を言われつつ、人生を歩んできた男として描かれる。
だが、アレクサンダー・ペイン監督はそんな彼を、温かい視点で描いている。
良く考えれば、ウディは長年妻と暮らしてきて、長男ロス(ボブ・オデンカーク)とウディを立派に育て上げたのであるから、立派なモノなのである。
・旅に出るまで何となく距離を置いていたデイビッドが、父を連れて明らかにインチキな100万ドルの当選通知先に連れて行くのは、そんな父が心配であったからであろう。デイビッドの劇中、不器用ながらも父を大切にする姿が、ジンワリと沁みる。
やや、認知症気味ではないかと思われるウディが夜中に出掛け、額に裂傷を負った時に看病し、亡くした入歯を一緒に探す姿。
・途中で、ウディの妻ケイト・グラント(ジューン・スキッブ)と、長男ロスも合流して、ウディとケイトが若き日に過ごした町を訪れるシーンが良い。
且つて住んでいた家は、廃墟になっており、伯母さんの家に立ち寄ると、親類が多数集っている。皆、ウディが100万ドルに当たったと知っているからである。
・そして、数名の知り合いは、昔ウディに色々世話をしたと言って、お金をせびってくるのである。
そんな中、デイビッドは、ウディが母以外の女性を想っていた事や、幼い兄弟が亡くなっていた事などを知って行くのである。
■いつものように、バーでビールを飲んだ帰りに、ウディとデイビッドは黒い目立ち帽を被った強盗に襲われ、100万ドルの当選通知を奪われる。だが、その泥棒は太った体格から直ぐに親戚の口の悪い兄弟と分かる。そして、その当選通知はウディに金をせびってきた昔の知り合いの男に渡されている。
ウディはその男に揶揄われながらも、その当選通知を大事にしまいデイビッドはその男にパンチを喰らわすのである。
そして、100万ドルを貰ったら新品のトラック買うと言っていたエディは初めて真意を口にするのである。
”お前たちのためだ。何か遺したかったんだ。”
<その言葉を聞いた、デイビッドが父ウディの為に行った事が粋である。
それは、自分の車を売り、中古だが新品同様のトラックを買い、盗まれたコンプレッサを買い、ウディが若き頃に過ごした町の手前で父に運転を替わるのである。
澄ましながらも、得意げにトラックを運転するウディの表情が良い。それまでしょぼくれていたエディとは違う姿を名優ブルース・ダーンが、抑制した演技で見せるのである。
今作は、アレクサンダー・ペイン監督が、距離を置いていた父子の道中を温かくもユーモラスに綴ったロードムービーの逸品なのである。>
■追記
私の好きなロックバンドであるエレファントカシマシの14枚目のアルバム「扉」の中の収録曲の中に「地元の朝」という曲がある。
昔から好きな曲だが、実家の両親の家を訪れる時にいつも脳内に流れる歌詞がある。
”二親に会いに行こう。一年振りさ。・・。玄関の前で奮い立って笑顔を作った。母は喜びと心配を綯交ぜた表情で見ていた。・・。父はすごく嬉しそうに迎えてくれた。・・。
二親とも既に七十に近いんだ。・・。二親に捧げられし愛を、一体どうやって返そうか。返そうか。”
いつ聴いても、答えは出ない。旅行に連れて行く?温泉へ連れて行く?親に返す恩返しとは、そんな事ではないと私は思うのである。
NOBUさんのレビューを読み、コメントも頂戴し、映画の情景がまた有り有りと浮かんで来て、眠れないきりんです。ちょっと人恋しくってNOBUさんともう少しお喋りしたくなりました。
うちは93歳と90歳です。もちろん認知症が始まっており、要介護1と要支援1の二人です。
春にサ高住(サービス付き高齢者住宅)の夫婦部屋に入りました。ようやく慣れて落ち着いてきたかと思ったら秘密裏に「脱走計画」を立てていた事が判明して、子らは頭を抱えています(笑)
「自分自身の体に思わぬガタを感じるようになって、自分の老いを意識し始める頃」に「親の看取りの季節が始まる」のですね。
世の中の大人たちは、みんなこんなに大変な人生をやってのけていたのだなぁと、敬服の思いしかありません。
みんなが幸せでありますように・・
長文失礼しました。
😊
NOBUさん
こんにちは。
この映画の佳さを、じっくりと丁寧に解説していただきました。たくさんの珠玉のシーンを思い出しました。ありがとうございます😊
エレカシも聴きました。
息子であるこの僕自身も「親兄弟とのロード・ムービー」を生きていたのだと気づかせてくれた特別の映画です。
今から実家に電話をしますね。
ありがとうございました。