「黒人かスピルバーグにしか許されないであろう、娯楽映画」それでも夜は明ける しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
黒人かスピルバーグにしか許されないであろう、娯楽映画
邦題の「それでも・・」とポスターにある、あきらめない、って意味が真逆のような気がしないでもないが、まあ、それは置いといて、途中まで、最近どっかで観たなあ、と思ったら、スピルバーグの「戦火の馬」を思い出した。
本作をもっと娯楽的に撮れるとしたら、スピルバーグしかいないのでは、とも思ったし、スピルバーグならもっと「面白く」作ったかもしれない。それぐらい本作は娯楽性にあふれている。しかし、一方で、前半の、シネスコの大作らしく、スペクタクルな映像と音楽と音響効果と、テーマに若干まじめすぎる描写のかみ合わなさが映画としての物足りなさ、あるいはマックイーンの手腕がもう少し、ということなのかもしれない。
本作、光りと音の演出にはこだわりがあり、鞭のしなる音、背中を打つ板、鞭の音、鎖の音、ととにかく不快な響き。一方で木漏れ日や夕日、燃える炎など、優しくまたははかなく輝く。12年の歳月がソロモンの顔に老いと皺を刻んでいるのを無情にもはっきりと映し出す。
その12年はあきらない結果ではなく、自身がこれまでの人間性を失い、奴隷として生きていることを認める鎮魂歌の合唱、自分の自由黒人としての象徴だったバイオリンを破壊するなど、着々と彼は、奴隷としての人生を認める手前までは来ていたのだ。だが、運が、そう運が、彼の奴隷人生からあっけなく、12年前、あっけなく仲間が救われたように自身も実にあっけなく解放される。
しかしそのあっけなさは、本人にしかやってこない。パッツィにはやってこない、ソロモンも救えない、初めから救えない。
邦題の「それでも・・」はそういう意味では、
「生きてればきっといいことあるよ」
という意味だと思うが、
「やまない雨はない、明けない夜はない」
とはちょっと違うんじゃないかな。
まあ、もうちょっと言うと、「意思でどうにか」でもないんだけどね。
正直、映画の評価としては、ラストぎりぎりまでは、特にぐっとくるものがなかった。登場人物がお決まりのキャラクターばかりなのも物足りない。
しかし、最初の自由黒人のときの昼正装のばっちりきまってる感と、連れ戻された時の老いと顔のしわ、くたびれた顔の衣装の似合わなさ感のギャップにドキっとし、ソロモンが家族と再会した時に発した言葉「apologize..」
12年間ほったらかしにして悪かった、とは悲しすぎて、つらすぎて、ここはちょっとホロリ。
やはり最後は主人公の意思で締めて正解だと思う。
追記
平等を訴える人物が、映画の中で浮きに浮きまくっているんだが、それをプロデューサーのブラッド・ピットが演じるんだが、なんだかやらしいな、と。