「焦燥と抑圧」トム・アット・ザ・ファーム Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
焦燥と抑圧
母親というのは、自分の望むことしか見ようとしない。それでいて自分はまっとうだと信じ、家庭の中で支配的だ。
いいトシの息子に敬意を払わず、人前でも子ども扱い。
この母親は弟を溺愛し、兄は愛情に飢えて育ったことだろう。
人格を無視されると、人は理論的になれない。そして日常生活に焦燥感を持つと、明るい未来の生活設計などできないものだ。
一方。
保守的な風土の中で、ゲイは社会的に抑圧されている。
主人公はこんなにも美形なのに、爪を噛んでいる。綺麗な指ではない。
自分の手入れに余念がないナルシストとはちがう。
焦燥と抑圧。奇妙な共依存関係。
恋人を失い、死んだも同然の主人公が、恋人の面影を宿した兄の暴力に「生」や「自分の価値」を感じる。
閉塞空間の中で、こき使われて、子牛のように死ぬのも悪くない…って?
しかし、ストレートとゲイの関係は超えられない。兄によって口を裂かれたゲイ男の幻影。
本質に戦慄した主人公は、ついに農場を去る。
街には軽薄な男女。主人公に居場所はなさそうだ。
心理描写も状況説明も、余計な言葉は使われず、映像と音楽で語られる。
その中で、冒頭の、紙ナプキンに書かれた青いインクの言葉が美しい。
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