FORMA : インタビュー
新鋭・坂本あゆみ監督&松岡恵望子、鮮烈なデビュー作「FORMA」に込めた思い
2人の女性が抱く憎しみの連鎖によって引き起こされた悲劇を通じ、人間の心の闇に鋭く迫った野心作「FORMA」。新鋭・坂本あゆみ監督の鮮烈なデビュー作にして、国内外で数々の賞に輝いた力作が、8月16日から封切られる。構想に6年をかけ完成にこぎ着けた坂本監督と、文字通り“共闘”した主演女優・松岡恵望子が、紛れもない“代表作”に込めた思いを語った。(取材・文/山崎佐保子、写真/編集部)
高校の同級生だった保坂由香里(松岡)と金城綾子(梅野渚)が突然の再会を果たすことから、不穏な物語が始まる。由香里は綾子に誘われて同じ会社で働くことになるが、2人は互いに積年の思いを抱えており、行き場のない憎しみの感情が暴走していく。
第26回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門作品賞にはじまり、第64回ベルリン国際映画祭フォーラム部門国際批評家連盟賞など、国内外で高い評価を獲得してきた本作。物語のもとになる事件が実在するわけではないが、坂本監督は「悲しい事件は毎日のように起きていて、報道ではたった数行で終わってしまう。しかし背景には切実な思いがあると思います。そういった思いが漠然と肩にのしかかった」という。
映画という表現においては、事件を振り返るために過去を描く"回想シーン”が多用されるが、「“回想”が真実かどうかわからない、そんな違和感を持ったことがこの企画の出発点。回想は語り手の視点で都合のいいように描かれてしまうもの。情報を切り貼りして“編集”されたニュースに当たり前に接している危うさへの戒めの意味もある。だからこそ“紛れもない真実”を表現したかったんです」と語る。
それら全ての意図は、役者への絶対的な信頼があってこそ成立したともいえる。そんな監督の期待を背負った松岡は、「託してくれたことはとてもうれしかった」と充実感はあったものの、「由香里は日々の人間の関係も受け身で、愛に飢えていて、物事にうまく向き合えない。『この子ってどういう子なんだろう?』って強く興味をもったけれど、準備期間は本当に苦しくて、苦しくて。プレッシャーや色々な思いがあふれて、心がカチカチになって動かなくなってしまった」というほどに役に没頭。そして、「他の現場でやっているような“お芝居”では通用しないということを直感しました。由香里の感情を自分の中に落とし込んで、そこから自然と生まれるものじゃないと成立しない。それはとても難しいことだけど、今までのどんな役よりも強くひかれた」と明かす。
坂本監督もそんな松岡を見て、「役の思いを全身で背負い、演じている感じが一切なかった。設定だけを決めてセリフを書き込んでいないシーンでは、『よくこのセリフを言った!』と本当に感心。絶対に台本には書けないものが生まれた瞬間でした」と称えた。
タイトルの「FORMA」とは、「日本語に無理矢理訳すと“本質”。人間は死ぬと肉体は灰になるけど、本質は残る。その本質とは何なのか答えは出ていませんが、ロマンチックな言い方をすると“魂”みたいなもの」と説明する坂本監督の眼差しは、どこまでも真摯だ。作風は異なるものの、世界が認める鬼才・塚本晋也監督の現場で経験を積んだという事実を納得させる映画哲学を感じさせる。本人は「塚本監督がいなかったら今の自分はないといっても過言じゃない。爪の垢にも及ばない」と謙そんするが、しっかりと鬼才のDNAの受け継いでいることが本作で証明された。
坂本監督にとって、「目指すべき演出は私の監督としての“自我”が消える瞬間です。いくつかのシーンでは自分が無力になるシチュエーションが生まれました。そこまでを構築するのが私の仕事で、その後は自分が必要なくても物語が勝手に進むことを目指したんです。だから、台本にないこともその場で自然に生まれることが必要でした」と劇中で起こる必然の“奇跡”を目撃してほしい。
今や国内のみならず世界から注目される存在となった坂本監督だが、「これからもやりたいことは変わらないです。人は色々なものを抱えた罪深い生き物で、そこからは逃れられないと思います。それをどういった形で描けるか、自問自答を続けて追求していくのみです」と決意は固い。撮影終了後も役が抜け切らず「燃え尽き症候群だった」と明かす松岡も、「『カメラの前で役を生き抜くぞ』という思いだけで突っ走った。すごい刺激だったし、芝居ってこんなにも苦しくて楽しいんだって改めて感じた。これからもがむしゃらにいいものを作りたい。これだけ強く思える役、作品にまた出合えたらとても幸せだと思うんです」と力強く語った。