「悪は的にヒリヒリする救いようのないサスペンス」プリズナーズ 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
悪は的にヒリヒリする救いようのないサスペンス
プリズンは刑務所を指しますから、プリズナーズは「囚われた者たち」
ですね。
SF映画・・・「メッセージ」「ブレレドランナー2049」
そして「デューン砂の惑星」で、SF映画に圧倒的な才能をみせつける
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。
しかし「灼熱の魂」とこの作品「プリズナーズ」では、神をも恐れぬ所業の
狂気の嵌まった人間を描き強烈な後味を残します。
SF作品では圧倒的な映像美と音楽の神秘的美しさが際立つだけに、
サスペンス要素の強い本作のエグさに別人監督のような印象を受けます。
宗教的要素ついことは、門外漢なので置いておくとして、
【狂気の犯人像】には驚きを禁じ得なかった。
犯人ホーリーを演じるメリッサ・レオ。
今年63歳で「ザ・ファイター」で2010年に
アカデミー賞助演女優賞も受けた実力派だが、あまり馴染みはない。
こと映画の面白さは娘を誘拐される父親を演じるヒュー・ジャックマン。
犯人を突き止める刑事を演じるジェイク・ギレンホール。
そしてあまりにも意外な犯人役のメリッサ・レオの3人の怪演にあるが、
トリックのような謎の男ポール・ダノの存在も実に大きい。
感謝祭の日。
ペンシルバニア州のある田舎町で、2人の幼い少女が突然姿を消す。
父親のジャックマンと刑事のギレンホールは少女たちが消えた日に、
近くに停めてあった大型のRV車に注目する。
その車を運転していた男は10歳程度の知能しかないアレックス(ポール・ダノ)
だった。
この映画が特異なのは、娘を誘拐されたと信じるジャックマンが私的捜査を
勝手に進めてアレックスを犯人と決めつけ、空き家に監禁して、熱湯を浴びせたり
残酷なリンチに走る点だ。
ヒュー・ジャックマンは娘が行方知らずになって理性を失い暴走する父親像を
全く共感出来ない男として演じてみせる。
一方で刑事のギレンホールは捜査を手順を踏んで定石通り進める男として
描かれる。
性犯罪者のリストから追って行くと、教会の地下室からミイラになった男の
骨が発見される。
実はこの誘拐事件は数十年に渡る少年・少女誘拐事件の真相に
近付く序章だったのだ。
ミイラ化していた男がアレックスの伯母を名乗るホーリー(真犯人)の夫で、
長年に渡って誘拐・拉致・監禁を愉しむ夫婦だったのだ。
ポール・ダノも誘拐された少年の一人で、誘拐犯夫婦の手伝いをさせられている
被害者なのだった
例のごとく、ポール・ダノの不審者であり精神障害者(拘禁により、
教育もまともな発育も妨げられた彼こそ最も歪められた人生をホリーによって
強いられた被害者・・・なのだが、その不審者演技がうますぎて言葉もない)
ポール・ダノ演じるアレックスの哀れさと狂気のリンチに走るジャックマン。
その彼が受ける報復はある意味で当然のように思えてしまう。
陰鬱な展開で狂気に陥る父親にグイグイ引き摺られ、
意外な犯人像と言い難い悪意の真相と結末に唖然とし、
更に追い討ちをかける悪魔のラスト。
長いけれどサスペンスの楽しみは十分に味わえる作品だった。