セッションズ : 映画評論・批評
2013年12月3日更新
2013年12月6日より新宿シネマカリテほかにてロードショー
首から下が動かない中年男が見せる、人間の計り知れない可能性
3つの驚きがあった。ひとつは、首から下が動かず、重度の呼吸障害も負った主人公のマークが、家族の介護を受けず独居生活を営んでいること。ふたつ目は、そんなマークが充実した性生活を送れるように指導するセックス・サロゲート(代理人)なる職業が存在すること。そして何より、「生きるとは何か?」という永遠の命題に、この素材でアプローチする斬新さに驚かされた。
心身とも女性を愛せる男になりたい。そんな望みをかなえるため、サロゲートのシェリルとのセッション(ベッドイン訓練)に挑むマーク。最初のセッションで、彼は緊張し、失敗し、恥をかく。一方で、裸の女性に触れてもらう喜びも味わう。マークが体験するのは単なるセックスじゃない。良いことも悪いことも、きれいなことも汚いことも同時多発的に起こる人生そのものだ。そう、セッションは人生の縮図。だからこそ、思い通りにいかないセッションに四苦八苦するマークに共感を誘われ、成功を応援したくなるのだ。
マークにとってのセッションは、初体験を超える発見の旅となる。彼は愛の喜びを知り、痛みを知る。大人の分別を示すという通過儀礼もくぐる。マークは自分が感じる以上に豊かに生を輝かせ、その成長を通じて周囲の人々と私たち観客の胸に前へ進む勇気を植え付ける。そして、人間には計り知れない可能性があることを信じさせてくれる。説教臭さのない、おおらかな語り口で。
マーク役は「ウィンターズ・ボーン」のジョン・ホークス。シェリル役は「恋愛小説家」のヘレン・ハント。2人の精神的な架け橋となる神父役に「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシー。ドタバタ喜劇にならないユーモアとメロドラマに陥らない繊細さの配合が絶妙な、3人の芝居が見事だ。
(矢崎由紀子)