大統領の執事の涙 : 映画評論・批評
2014年2月4日更新
2014年2月15日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
名もなき執事の生涯に米現代史を重ねて描く、黒人版「フォレスト・ガンプ」
1950年代からの約30年間にホワイトハウスで7人の大統領に仕えた名もなき執事の生涯に、アメリカの現代史を重ねて描く物語は、いわば黒人版「フォレスト・ガンプ」。まだ南部で黒人が奴隷扱いされていた時代に育った少年セシルが、いかにして一流の執事になったか。駆け足で綴られるセシルの出世物語自体もそれだけで十分面白いのだが、本筋は公民権運動を挟んで対立することになる父と息子のドラマだ。
ホワイトハウスで白人に仕える父親と、そんな父親を恥じ、活動家となった息子ルイスの葛藤に、キング牧師やマルコムXまで絡んでくるのがエキサイティング。もちろん、その激動の時代を背景にした物語には、普遍的な家族の物語として目頭が熱くなる。ワシントンポストに紹介された実在の執事の記事から、史実とフィクションをないまぜにして、ここまでドラマティックなストーリーを紡ぎあげたお手並みには興奮せずにいられない。こういうことが出来るのがハリウッドの強みなのだ。
そして、もうひとつの注目は実力派スターたちが演じる歴代大統領。最近は実在の有名人を演じる際に外見をコピーすることにこだわらない演出が多いが、それだけに演じる人物の空気感をいかにとらえているかに役者の力量がはっきり現れる。JFKの颯爽とした空気を醸し出して意外に実力があることを気づかせるジェームズ・マースデンや、レーガン大統領の好感度まで上げるアラン・リックマンなど、7人のビッグネームがそれぞれの大統領の人となりを再現して、微苦笑を誘う。歴代大統領(役)の品定めもお楽しみだ。
(杉谷伸子)