「【亡霊】」007 スペクター ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【亡霊】
映画タイトルの「スペクター」は亡霊という意味だ。
この作品は2015年公開のものだが、欧州を中心に世界は不安定化している最中だった。
2009年のギリシャ危機をきっかけに、2011年から12年にかけて欧州では景気が著しく後退し、他欧州連合の国からの移民にも厳しい目が向けられ、極右や民族至上主義に代表されるポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭していた。
イギリスでは、この映画の翌年、欧州連合(EU)離脱を問う国民投票が行われ、2016年にはアメリカ大統領選挙で白人至上主義のトランプが当選する。
そして、東欧やロシアを中心にした国々からネットを通じてデマが横行し、人々の判断を狂わせた。
僕はこの作品を観て、911のテロや、リーマンショックなどの金融危機、欧州危機などを目の当たりにして、世界はコントロールを失い、世界は何か普遍的な共通の価値観に基づいて運営されるべきなのか、これまで通りの独立した運営が良いのか、社会自体に葛藤があることを示唆しているように感じだ。
この作品では、亡霊のように付きまとう、ジェームズ・ボンドの様々な過去やトラウマに終止符を打つように、復讐劇も含めて物語が展開していく。
Mの遺言。
ダニエル・クレイグ・ジェームズ・ボンドの生い立ちの回想(ヴェスパーの分析が思い出される)。
ホワイトとの邂逅。
ホワイトの娘との邂逅。
ジェームズ・ボンドの養父がフランツ・オーベルハウザーの父で、フランツが殺害したという悲劇。
これによるジェームズ・ボンドのトラウマ。養父がジェームズ・ボンドを愛しすぎたために、殺害されたという想い。
世界的な諜報活動組織の再編と従来の諜報組織の解体の動き。
そして、最後にフランツの殺害を選択しなかったジェームズ・ボンド。
この作品でも様々な対比が織り込まれるが、大きく異なるのは、亡霊を亡霊のままにしないという強い意志で、ジェームズ・ボンドが、フランツの殺害を思いとどまったことだと思う。
この作品では、このようにして、亡霊やトラウマが振り払われる。
また、初めに述べた葛藤についても、おそらく、人の叡智とバランスが重要なのだと示唆しているようにも感じる。
結構、示唆に富んでいて、僕は、好きな作品だった。
Mの遺言や自身のトラウマを振り払ったことで、もしかしたら、これで、ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドは終焉かと思いながら見ていたが、再構築されたボンドカーを手に入れたところで、まだ、続きがあると確信して映画は終わった。
しかし、あれから、6年。コロナ禍があったことは確かだが、再登場まで時間を要したものだ。