「ボンドも生きづらい世の中になったのかしらん」007 スペクター りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ボンドも生きづらい世の中になったのかしらん
ダニエル・クレイグが007ジェームズ・ボンドになっての第4作目『007/スペクター』、ロードショウで鑑賞しました。
前作『007/スカイフォール』でボンドの生い立ちがストーリーの全面を占めるようになって、こりゃ、007映画も危機的情況、と思ったのですが、今回は世界的犯罪組織の宿敵スペクターがタイトルになった。
よもや、前作のようなボンド個人に係わる内容ではないだろうと高を括っていたら・・・ありゃ、今回もボンドの個人的因縁がからむハナシになってしまった。
メキシコシティの「死者の日」、ボンドは国際的な大物犯罪者を追いつめ、死に追いやった。
しかし、その活躍は派手派手で、ボンドは停職の身になってしまう。
一方、ボンドが属するMI6も組織存続の危機。
英国国家安全保障局が国際的な情報集約に乗り出そうとしており、「殺しのライセンス」を有する暴力部署は不要ではないかとの政策が打ち出されていた・・・
って、おいおい、こんなビジネスマン的な組織存続の危機って、まるっきりジェームズ・ボンドに似つかわしくない。
ボンドには、しがらみなく、度外れた野望をもつ国際犯罪組織をやっつけてほしい。
こんなことを思うのは、頭が古臭いのかしらん。
ボンドが突きとめる国際犯罪組織スペクターがやっていることは、英国国家安全保障局と裏で手を組んで情報を一手に集めて、非合法活動を行うというもの。
うーむ、実際的すぎて、ジェームズ・ボンド的世界からほど遠い。
世界中の金塊を集めて、自分たちが所有している金塊以外に放射線を当てて無価値にするとか、
大陸弾道ミサイルの発射装置を自由にするとか、
宇宙を飛び交う人工衛星を手中に収めて殺人電波を出すとか(これは別の映画だったな)、
そんな荒唐無稽な巨悪に立ち向かってほしいのだ。
これでは情報収集が巨悪みたいじゃありますまいか。
集めた情報で国際間調整をすれば、それは外交の範囲なんだから巨悪でもなかろうに。
まぁ、スペクターと手を組むのはいただけませんが。
と、こんな調子のリアル志向(嗜好)が強すぎて、ほとんど愉しめない。
愉しめるのは、「死者の日」の大群衆の上空でのヘリコプター活劇ぐらい。
これとてもヘリコプター1機が右往左往するだけなのだから、映画としての嘘のつきかたが下手すぎる。
後半のアクションシーンにいたっては、ホントウに痛そうな描写が多く、観ていられない。
特に、ボンドの脳に極細のドリルを突き刺す拷問は、こんなの子どもに観せられない。
だって、2回も脳に刺さるんだよ。
以前のボンド作品なら、刺さる前に脱出するはず。
どうしたって後遺症が残りそう。
で、いちばんの問題はスペクター。
おいおい、またまたボンドと個人的な確執があったって?
この世界観の小ささ、どうにかならんものか。
しがらみだらけでは活躍なんてできないだろうし、活躍したって結局は個人レベルに収斂してしまう。
所属する組織の存続は危機的情況、こんな情況になったのはお前のせいだ、個人でがんばれって、そりゃブラック企業じゃありますまいか。
鼻づらを引っ張りまわされての148分、飽きずには観れるが、それが故に性質が悪い。