劇場公開日 2015年12月4日

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「過去の幻影(Spectre)を越えてゆけ 粋でド派手な007映画、復活!」007 スペクター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5過去の幻影(Spectre)を越えてゆけ 粋でド派手な007映画、復活!

2015年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

『カジノロワイヤル』『スカイフォール』はサスペンスそして007の原点回帰という点では傑作だったが、
かつての荒唐無稽でド派手なアクションを期待していた向きには不満の残る出来だったと思う。
(『慰めの報酬』はドラマにもアクションにも余裕が無かったかな)

だが『スペクター』は……「過去3作品は荒唐無稽な007を説得力ある形で
2000年代に復活させる為の長い長い前振りだったのでは?」と思えるくらいに、ド派手!
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毎度恒例、オープニングのアクションシークエンスはシリーズ最高とまで言って良いかも。
メキシコの『死者の日』、その大勢の群衆の中での驚異の長回し!
(あれだけの人数の動きを一体どうやって統率したんだ?)
そこから更に爆発! 倒壊! チェイス! 格闘! サム・スミス! 大ダコ!

開巻早々からクレイグ版ボンド中でも最大スケールのアクションシークエンスが展開。
そこから先もドカッバキッでブーンブロロロでドッカーンで
チュイーン(ドリル)でガラガラガッシャンでドキュンバキュンと息つく間もなし!
(ものすごく頭の悪そうなレビューなのは百も承知である)
祭りや列車内といったシチュエーションを利用したアクションについては文句無しだし、
更には007史上でも最高にデカい爆破シーンだって用意されている。二度死ぬ勢いの爆発。
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メキシコ・イギリス・イタリア・オーストリア・モロッコの贅沢かつスケール感のある映像も、
レア・セドゥ演じるボンドガール、マドレーヌ・スワンも見目麗しい。
特にマドレーヌは、父娘を巡るドラマや勝ち気な態度に見合うだけの強さがあってステキ。

常連・QもMもマネーペニーも期待通りの行動にひとヒネリ加えて楽しませてくれるし、
クレイグ版ボンドではお目にかかれないだろうと思っていた
ガジェット付ボンドカー(余計な機能多し)や小道具も今回はバリバリ登場。
あと、ボンド自身もけっこうジョークが利いてます。

何よりワクワクさせるのは、悪の秘密結社スペクターとその首領の復活!
悪の秘密結社&秘密基地という、今や日曜朝の戦隊モノでしかお目にかかれない設定を
2015年の映画しかもシリアス&ハードなクレイグ版ボンドでがっちりやってのける。
スペクター最大の武器は前作から地続きとなっているである。
クリストフ・ヴァルツ演じる首領オーベンハウザーのねちっこい悪党ぶりもグッド!
含蓄タップリの悪党演説は録音して繰り返し聴きたいくらいだ。カッコー!
え。ボスの名前が違う? 傷が無いから怖くない? にゃんこがいなくて怒りに震える?
ウフフフフ……(旧悪役的な笑い)。
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とまあ隅から隅までスゲー楽しませてもらったのだが、
やっぱ不満点はある訳で。

肉体を駆使したアクションや爆破シーンは素晴らしいの一言だが、
銃撃戦やカーチェイスのアクション演出は物足りない仕上がり
(監督がそもそもアクション畑の人じゃないというのも要因かね)。
特に終盤2つのアクションシークエンスはスケールに反してアッサリ過ぎる。
オープニングと同じ位にしつこく戦ってくれても良かった。スペクターって人員不足なのだろうか。

もうひとつ。
秘密結社スペクターをうまく現代風に復活させたとはいえ、過去3作の
ドラマ重視路線(特に『スカイフォール』)からの変化がやや急激過ぎるか。
前作が母(M)と子の確執をしっかり描いた物語だっただけに、今回は
父(オーベンハウザーとホワイト)と子の物語ももっと濃密に描いて欲しかった。
まあ、怒涛のアクションの中でそこまで語れというのは贅沢言い過ぎか。
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しかしながら、
148分という長尺でありながら欠伸ひとつ出ない、
見せ場だらけの一大アクションエンターテイメント!
単体として満足な4.0判定だが、荒唐無稽なボンドが見事復活!という嬉しさ込みで4.5判定。

今回でクレイグ版ボンドは終了と専らのウワサなのでそこは残念至極だが、
それでも次回作へ綺麗に繋ぐ事ができたんじゃないかしら。
オーベンハウザーもあの結末ならもしかして……ウフフフフ。

<2015.11.28鑑賞>
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余談:
クレイグ版ボンドの集大成的な作品である本作だが、
過去シリーズを彷彿とさせるシーンも山ほど。

前3作品の他にも、
『死ぬのは奴らだ』『ゴールドフィンガー』『女王陛下の007』『私を愛したスパイ』
『ロシアより愛を込めて』『007は二度死ぬ』『ムーンレイカー』
あたりを押さえておくときっとニヤリと出来る。僕が思い付いたのは上記くらいだが、
熱心なファンじゃなきゃ気付かないようなマニアックなネタもあるかも。

浮遊きびなご