劇場公開日 2014年3月29日

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「秀逸な引っ掛け」白ゆき姫殺人事件 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0秀逸な引っ掛け

2024年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

この物語は、見る人を引っ掛けている。
タイトル通り犯人が誰かを推理するように設計されている作品だ。
つまり見る側は誰が犯人なのかという視点で作品を見ることになる。
作中で実際に起きた殺人事件。
TV局は当然ながら犯人像を追う。そのTV局の契約社員の赤星が被害者の同僚である知人・狩野理沙からのタレコミに引っ掛かり誘導されていく。
あたかも事件を追いかけている赤星は、刺殺された三木典子の同僚の狩野他数人の同僚たちからSつまり城野美姫が疑わしいとして、ツイッターなどで注目されるようになる。
同時に視聴者は彼の行動を見ながら、真犯人を追いかけるのだ。
ここに引っ掛けがあるのだ。
湊かなえさんが仕組んだこの策に引っ掛かれば、殺人事件の真犯人を暴く面白さを味わえる。
しかし、これらすべては実際に起きた事件と因果関係はない。警察によって事件捜査が行われ警察によって事件は解決する。
この作中に登場した人物たちの証言などは、一切警察の関知するものではなく、警察は全く別路線でこの事件を追いかけていることがわかる。
そしてその策に乗せられた私たちこそ、SNSで呟いていた者たちと同じなのだ。
湊さんが笑うようだ。「これがわからなければ、あなたも呟きチームと同じね」
ツイッター上では彼の情報に翻弄され、Sという人物の特定に走り、彼がTV関係者だと誰か(夕子)が指摘すると、彼に対し文句を言い始める。我々は投稿者と同じなのだ。
事件は起きた。誰の仕業だ? 事件とは関係ない「私たち」は、単なる興味本位で真相を探ろうとする。そして実際に探り始めた人(赤星)に対し、彼の日常生活や仕事のやり方などに文句を言うのだ。
やがて、思った通り、犯人は城野美姫ではないことが見えてくる。
実際、城野美姫について時系列で追いかけると、彼女は狩野にそそのかされて三木典子からチケットを奪い新幹線に乗って東京へ行く。コンサート会場に現れた芹沢ブラザーズに近づいて握手しようと試みた際、群衆に押され彼が階段から転がり落ちる。動揺しながらその場から去り、ビジネスホテルに泊まって重い夜を明かす。翌朝のニュースが伝えていたのが、三木典子が刺殺された事件だった。そしてすぐにSという人物が犯人ではないかとワイドショーで騒がれ始めることになる。彼女はそのままビジネスホテルから出られなくなってしまったのだ。
視聴者は、当然だが、赤星と一緒に事件を追いかける。ツイッター投稿者と同じで。
しかしそこには全く因果関係のない城野美姫へのレッテルが渦巻いている。
犯人探しをしているから当然の視点だ。
ここに湊かなえさんは策略を引っ掛けたのだ。その本質は「いじめ」と同じなのだ。
赤星が取材した内容はすべて彼らの勝手な思い込みで、彼女へのレッテルだ。そこに真実などないのに、どうしてもそっちに引っ張られてしまうのだ。
このごく「一般的な人間性」を湊かなえさんは描いたのだと思う。この作品を見て「違和感」を感じない場合、策に引っ掛かったと思っていい。
だから最後はパロディタッチにしたのだろう。事故を起こしそうになる場面で二人が出会うのは、「事故にならずによかった」という暗示かもしれない。
この物語は、真犯人狩野理沙が知人である赤星をミスリードに導き世情的に城野美姫を犯人に仕立て上げようとしたことに由来する。警察と一切接点が出ないこと、同僚などの証言はすべてバイアスまたはレッテルによっていじられ、そこに真実はなかったこと。
気づくべき点は、そうして我々は知らず知らずのうちにそうしていますよということだ。
「いじめの構造」これがこの作品が伝えたかったことだろう。

R41