そこのみにて光輝くのレビュー・感想・評価
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出口のない暗さ
呉美保監督の「そこのみにて光輝く」。社会の底辺といわれるところで必死に生きていく主人公たちの姿に「誠実」という言葉を感じた。しかし、彼らの「誠実」は報われることなく、這い上がろうとしてもがけばもがくほど、さらに突き落とされていってしまう。
綾野剛と池脇千鶴という二人の人気役者が体当たりの演技で凄みを感じさせる。ひとことで言うなら「暗い」映画なんだけれども、70年代の日本映画の持っていた暗さとはまた別の暗さがある。70年代の日本映画の暗さは、社会全体は明るい方へ向かっているのに、自分たちだけがその明るさになじめないという暗さだったが、この映画の暗さは本当に出口のない暗さである。
原作の佐藤泰志さんの小説は恥ずかしながら読んだことがないのだが、CSで「書くことの重さ 作家佐藤泰志」というドキュメンタリー映画を見て、この人自身が抱えていた「誠実」な生き方と、報われない「暗さ」がこの映画にも反映されているのだなと感じた。
池脇千鶴に恋をする
冒頭、綾野剛の全身を追うカメラに「これは!?」と胸を踊らせ、その後出逢う菅田将暉のクズっぷりに慣れたら、池脇千鶴の美しさにもう堪らなく、あまりに贅沢な三人をスクリーンで見ていることが幸せだった。
自分の発言により後輩をなくしてしまった達夫、自分の身体を金に変え家計を支える千夏の出逢いはとてもキュートで、愛し合う姿も綺麗。千夏につきまとう中島の脅迫で幸せにはなれない千夏をなんとか救おうとする達夫と拓児。全部の幸せになれない原因が「拓児の仮釈放」という言葉に丸められた途端に物語の道が誰にでも見えてしまう。良い言い方をすればとてもとても分かりやすい。その冒頭とのギャップに「は?」となりながらも池脇千鶴の美しさと美保監督の依頼にある心も身体も脱いだ女優魂。とりあえず、池脇千鶴バンザイの作品。
素晴らしい
配役ぴったり
まず
火野正平さん、久しぶりに映画で観た。
あの奥歯に物が挟まってるような、はにかんでるような話し方。変わってなくて今回の役にもピッタリでよかった!
観に行く前に作品紹介を読んでた。
もっとギラギラ、ピリピリな表現なのかと思ってたがネバっと泥臭かった。
タツオ、無口だけど彼の気持ちがわかるように描写されてる。どうやったんだろう?綾野剛君の表現がうまいのか、前後のセリフや画面のせいなのかわからないけど、とにかく私はうまく引き込まれた。
タクジ、うるさいけど憎めないやつ。菅田君?何度か何かで観ているけどこの役、良かった!
千夏、最初のシーンからイメージピッタリ。池脇さんてすごいなー。千夏の気持ちの動きはわからない部分もあってそのもどかしさが良かった。
配役ぴったりという表現じゃなく、自分に与えられた役になりきることができる役者さんたちなんだと思う。
函館の景色、海、夏なのに秋みたいなさみしい雰囲気。
ケガキの文字と千夏のさみしい笑顔
観てよかった。また映画館で観たい。
どうしても観たかった作品
映画のチラシを見た時点で気になっていた本作品。
しかしながら観賞条件がタイトでタイミングが合わず悔しい思いだったが、やっと観ることが出来た。
あまりハードルを上げたくなかったが、予告編やレビューを見るにつけますます期待値は上がる一方だった。
しかしそんなハードルは関係ない、期待通りの作品だった。
まず画面から漂う空気感、演者が放つ現実味に引き込まれ、まるで自分も彼らの側で彼らのことを見守っているかのような気持ちになった。
自分では背負い切れないかもしれない重荷を背負い続け、いつ終わるかも分からない閉塞感…。どうしようもない虚無感…。負の連鎖…。
しかし彼らは逃げずにそこに踏みとどまる。そこのみのそこは底なのかもしれない。
しかし彼らは見つけるのだ。そんな底の世界で…。
幸せや希望を見つけるのに上も底も無い。
そもそも幸せかどうかなんて他人が決めることではない。
他人の目には不幸に写ろうとも当人たちが幸せを感じたなら、それは間違いなく幸せなのだ。
どんなに酷い環境だろうと、どんなにキツい状況だろうと何とかしようと生きていれば、輝ける一瞬や希望の光が射す日が来るかも知れない。
その日のために今の苦労はや悩みは必要なのかも知れないのだ。
達夫も千夏も拓児も悪い人間では無い。私は好きだ。
なぜなら彼らは不器用ながら一生懸命受け止めようとしているからだ。
潰されそうになりながらも必死に生きているからだ。
それは自覚と責任感がなければ出来ることではない。
誰だって幸せになっていいんだし、幸せになる権利がある。
希望の光を浴びて歩き出せ!そんな思いでいっぱいになった。
とても良い映画でした。駐車場代と合わせて3000円ほど使ったけど、それだけの価値がある映画だったので満足です。
呉監督はじめ作り手の皆さん。演者さん。関係者の皆さん、素晴らしい作品をありがとうございました。
高橋和也
更なる絶望の淵で暗く輝く千夏に魅せられました。
非常に良かった。
登場人物達を哀しくも輝かせる設定/脚本を軸として。
魅力的な映像表現と、役者陣の素晴らしい演技。
圧倒され心奪われました。
特筆すべきは全てに呑み込まれつつ暗く輝く、池脇千鶴演じる千夏。
初登場の場面から滲み出る頽廃感、そして熟れた肉感。
顔立ちの可愛らしさとのアンバランスも相まって不安定な印象すら受けます。
そんな彼女が過酷な環境下で見せる表情、仕草。
「そうだよね…」という寂しく哀しい佇まいは暗い魅力に溢れていました。
不幸になればなる程、魅力的な佇まいを見せる千夏。
話が進むにつれて感情移入し、彼女に幸せになって欲しい、いい加減幸せになってくれ!!と思う反面。
心の何処かで更なる絶望の淵で暗く輝く彼女をもっと観たいと思う気持ちも。
矛盾した気持ちを抱えつつ作品に没入していました。
そして迎えるラスト。
矛盾する気持ちは一つの結末を踏まえ昇華され。
そしてフッと差し込まれる最後の場面。
…終わり方含めて最高でした。
余計な説明台詞はなく映像で魅せる本作。
終盤に漏れる父親の言葉をどう捉えるか。コイツ今まで分かっていてアレを…等々。
場面場面の解釈を同じく観た人たちと談義したくなる作品でした。
オススメです。
俳優陣がすごい
揺さぶられた
出演者たちの演技が素晴らしい
生々しく息づいている
生きることの美しさ
この作品が今年ベスト級の理由
その①
美しいラストシーンから文学的なタイトルの流れが素晴らしすぎる。これほどまでに作品とタイトルが一体になっているのは見たことがありません。最早タイトルではなく字幕?というか声のないナレーションに見えました。僕は最後にタイトルが出る映画が好きなのでこれは本当にたまらない。
その②
誰もが語る3人の演技アンサンブル。特に仮面ライダーWを見ていた僕としては菅田将暉君がこんなすごい役者になっていたのかと驚きました。そんな個人的思い入れもあって彼のはしゃぐ姿はたまらなく愛おしく微笑ましく、顛末には心揺さぶられずにいられませんでした。綾野剛さんの演技は『白ゆき姫殺人事件』で初めて見ましたが、本当にダメ男が似合いますね。嬉しくなるぐらい似合ってます。『白ゆき~』とはまた違う感じのダメさでしたね。池脇千鶴さんの美人すぎずやさぐれている感じ、リアルな体型や髪をかきあげる仕草がなんとも言えない!
暗く、重く、汚いけどどうしようもなく美しく愛おしい一本。ラストシーンは必見。
役者の演技がピカイチ!!
このラストは本当に光輝くな!人間の底力、生きる事の美しさに胸を打つ
TVを普段見ない私は知らなかったのだが、池脇千鶴と綾野剛のカラミがTVのCMスポットで流れて話題になった映画らしい。
普段映画を余り観ない友人から、どんな映画か?と連絡が入った。
でもこの作品はそう言う事ばかりを気にして観るような親父には向かない作品だよな~と思って、どう薦めたら良いのか正直迷う作品でもあったのだ。
だがしかし、考えてみれば、あの北の外れと言っては申しわけないのだが、釧路などの北海道の地方都市と言うか、地方の街に住む人々の暮らしや、この映画の原作者の佐藤志が小説に描いていた時代は、高度成長から取り残された様な貧しさの色濃く残る地方色の濃い世界観と言うのは、やっぱり親父世代の、昭和ッ子、昭和生まれの人間か、実際に今も地方でしっかりと地に足を付けて、生れ故郷を大切に護り暮している人々でないと本当の意味でこの作品が描いているような世界観を理解するのは難しいのかも知れない。
私は昭和生まれでは有るけれど、東京近郊で育ち、旅行以外で地方都市を訪れる事は無い。地方の暮らし経験が無い私は、正直この映画が描きだす、仕事も思う様に無く、只真夏のけだるさのようなジリジリと身体と心を蝕んで行くような時間の流れは想像が着くけれども、本当の意味では理解出来ていない。
いつも時間に追われてはいるが、どんなに嫌な事であっても必ず継続しなくてはならない仕事と言うものは都会では無いのだ。
確かに転職は難しくても、自己の選択で人生の方向転換を図る事は何時でも出来るのだ。そう困難な状況ばかりではなく、自分の強い意志が新たな目標を達成させてくれる事が出来るのが、都市生活なのだからだ。
こう言う絶望だけが渦巻くような環境・・・その救いの無い日常に諦めて屍の様に生きる若い千夏。
そして仕事の失敗から立ち直れずに、自分の生きる場所を失い、迷路にはまった達夫。
この2人がお互いの中に、似た者を投影して、魅かれ合うのは自然な事だと思う。
だが、本当に辛い、話だ。
確かに素晴らしい作品だった。映像的にも自然の美しさや、お祭りで盛り上がる地方色の有る空気感が、画面から流れ出て来て見事だった。
そして千夏の弟拓児をあの「共喰い」で驚く様な芝居を見せてくれた菅田将暉が今回も
あっと驚くラストを飾る。
でもこの作品の一番の驚きは、女性監督、しかも未だ若い呉美保が撮った作品である事。
彼女は大林監督の作品からスタートしていると言う事は大林監督が北海道で映画製作の人材を育てている、その中から誕生した一人なのでしょう!益々今後が楽しみな監督です!
女は強し!
たくましい女。弱い男。
二回鑑賞しました。
一回目は男と女の視点で観ていましたが
二回目は家族の存在を考えさせられました。
寝たきりの父と介護疲れの働かない母。
仮釈放中のどうしようもないがかわいい弟。
この家族を女は食べさせて行かなければならない。
自分しか稼げる者がいない。
そして男と出会う。
哀れで悲惨で恥ずかしい暮らしをしているこんな自分でも
好意を持ってくれる人がいてくれることに
次第に女はこれ以上の幸せと希望を感じたのである。
最後のシーン。
どうしてあの状況の中、辛くて悲しくて泣き叫んでいたのに
女は微笑みを浮かべる事が出来たのでしょうか。
自分を捨てて身も心も削って必死に生きている姿を
池脇千鶴はリアルな演技で見せつけてくれました。
どん底の状況の中でも必死で生きている人の姿を見ていると
独りでなんとなく生きている今の自分が悲しく思えてきました。
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