「底光りの愛。」そこのみにて光輝く ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
底光りの愛。
不遇の作家、佐藤泰志の同名小説を映画化した作品。
原作は読んでいないんだけど、監督が呉美保だったので、
何が何でも絶対観てやる!と思っていた作品。ナニこの時間?
と思えるほど酷い上映設定の中、無理を押して観に行ってきた。
結果。…大正解!
これほど役者とストーリーの力を映像表現のみで感じられるとは
思っていなかった。こういう作品は、もっと拡大公開して欲しい。
格差に喘ぐ貧困世帯が多くなっている現代の日本社会に於いて
笑いごとで済まされない話である。老人介護や風俗や肉体労働が
生活に与える影響はことのほか大きい。全ての若者が頑張って精を
出して働いても「働けど、働けど、我が暮らし楽にならず」が蔓延る。
とある事故で仕事に就けなくなった主人公がパチンコ屋で知り合う
のが、寝たきりの父・介護する母・夜も働く姉を持つ仮出所中の男。
演じる菅田将暉の素直で人懐っこいキャラクターがとても新鮮だ。
彼に感化され、その姉に心惹かれる主人公が自らの人生を立て直す
ために、彼らに力を貸したいと思う過程には共感必至なのだが、
世の中そうは巧くいかない。立ちはだかる様々な問題に彼らは左右
させられ、終いにはボロボロに傷付く。それでも大切なものは何かを
きちんと分かっている人間にとって、ここからが強いことが分かる。
彼らに共通しているのは、それでも生きていこうとする、
ずっと家族を支えていこうと粘る、直向きな愛ゆえの行動力である。
特筆に値するのは、綾野と池脇が結ばれゆくシーンの丁寧さ。
観客はここで、自身とパートナーとの行為を思い起こすことになる^^;
愛する人と抱き合うことがこんなに温かく、優しく、静謐であるのを
こういう表現法で描き切った監督の手腕はお見事で、それに応える
二人の演技もアカデミー賞クラスである。愛し合うとは、こういう
行為のことをいうんだよと、例えばこれからそれを経験する若い衆に
観てもらいたいと思うほどで(ホントに)伝わる描き方には涙が溢れた。
「大切にするよ」と軽々しく口にするんなら態度で示せ、が相応しい。
性的な表現が凄惨な描写を見せる場面もあるが、
どん底。を味わった人間は、あとは上に上がっていくしかないので、
何でもやってやる。請け負ってやる。怖いものなどない感覚がある。
自身の心持ひとつで、誰かを助けたり、愛したりすることもできる。
何はどうあれ、運命は拓かれている。彼らはきっとこれからもここで
生きていくのだろう…というメッセージが、光輝く朝陽の海辺だった。
(綾野、池脇、菅田、高橋、火野、伊佐山、田村、皆さん凄い名演技)