劇場公開日 2013年10月11日

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トランス : 映画評論・批評

2013年10月9日更新

2013年10月11日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほかにてロードショー

複雑なプロットを物ともしないエネルギッシュな陶酔

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類い稀なる映像と音楽の融合により観客を陶酔状態へと誘ってきたダニー・ボイル監督。一時はハリウッド進出につまずきながらも、昨今ではその評価もうなぎ上り。むしろ巨大メジャーに迎合しないことで独自のスタイリッシュなスタイルを貫き、「スラムドッグ$ミリオネア」のオスカー受賞、舞台演出の成功、それにロンドン・オリンピック開会式の総監督としても目覚ましい成果を刻んできた。

そんな彼が上昇気流の只中で生み出したのが本作だ。舞台はロンドン。白昼堂々、オークション会場から名画が強奪されるも、犯人のひとりが頭を強打しその隠し場所を忘れてしまう。仲間はこの失われた記憶を催眠療法で探り出そうとするが――。

これまでのボイル作品と同様、陶酔感溢れる演出で紡がれる本作は、ボイルが「127時間」で挑んだ内面世界への冒険を推し進め、人間の深層心理をまた別の角度から炙り出す。その手腕の鮮やかさ。作中にはゴヤやベーコンを彷彿させる凶暴性や裸婦像を思わせるエロティシズムさえ立ちこめ、さらには鮮烈な色彩のタッチが観客の脳裏に本能的な警戒心を発動させてやまない。

一方でボイルの原点回帰を思わせる節もある。メインとなるのは3人の男女。初監督作「シャロウ・グレイブ」を思い起こさせるこのシンプルな関係性は案の定、刻一刻とかたちを変える。そしていつしか語り手や主人公といった線引きさえも曖昧にしたまま、観客が抱く彼らへの先入観をことごとく覆していくのだ。

規模は小ぶりながらもその語り口に迷いは無い。そしてこのトリッキーかつ複雑なプロットをエネルギッシュに成立させたキャスト陣の奮闘は極めて大きい。特にジェームズ・マカボイの存在感はもはや「つぐない」のイメージが遠い地平に霞むほど。その振れ幅もまた、この映画にもうひとつの陶酔をもたらしている。

牛津厚信

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