「恨み恨まれ夢芝居」喰女 クイメ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
恨み恨まれ夢芝居
一言で『恐怖』と言っても色々ある訳だが、
例えば『リング』やら『呪怨』やらのような恐怖を求める人(僕みたいな)からすれば本作はさして恐ろしくないだろうし、
当然ながら『13日の金曜日』や『ハロウィン』のようなショッキング描写を求める人もあまり恐ろしく感じないだろう。
本作は “怖い” というよりは “おどろどろしい” という言葉がしっくり来るか。
それこそ『番長皿屋敷』『真景累ヶ淵』といった古典的怪談を見聞きする時に感じるような性質のものだ。
己の命を脅かされる恐怖よりも……
憎い憎い……苦しい苦しい……悲しい悲しい……
そんな厭(いや)な感情を延々耳元で囁かれているような薄気味悪さ。
深すぎる情念や妄執といった類いに対して抱くどろりとした不気味さ。
現代が舞台でありながら雰囲気が極めて古典的なのだ。
だから最初に上げた作品のような恐怖を期待する人は間違いなく肩透かしを喰らう。
だが、今や映画やテレビではめっきり観なくなった、昔ながらの怪談話や舞台が好きな方なら気に入るのでは。
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面白いのは虚構がじわじわと現実を蝕んでいくような雰囲気。
映画は初めこそ舞台稽古の風景を映し、客席側に座るスタッフや黒子の姿も目に入る。カメラの視点もほぼ客席側から見えるものに限定されている。
だが物語が進むに連れてスタッフの姿はまばらになり、
カメラは客席から見えない部分を映すようになり、
舞台側と客席側の境目はどんどん曖昧になっていく。
美術面においても素晴らしい。
緑と青の照明が不気味に映えるあばら屋のセット、
舞台上でありながら野外と見間違うほどの荒れ野、
金色の巨大な百足を模した屋敷のセット、
柴咲コウ演じるヒロインの自室の病的な白さ、
彼女が壊れていくに連れて変貌するその外装、
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市川海老蔵はドンピシャ過ぎて面白みが無いくらいに(笑)ドンピシャな役回り。
舞台上での低く響く声と抑制された所作はさすが歌舞伎役者。
舞台の外で見せる軽薄な感じとのギャップも少し面白い。
柴咲コウは女の情念を感じさせるドロリとしたキャラクターを演じるには難があるが、
むしろ“情念”という感情から無縁だった女が主人公との関係によって壊れていくという流れでいけば、
彼女の人を寄せ付けない一種堅牢な雰囲気が活きていると言える。
伊藤英明も脇役ながらグッド。最後の柴咲コウとの不穏なやり取りが良かった。
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けど、昨今の恐怖映画に慣れてしまった自分としては、やはりもっと怖がらせて欲しかったと感じる。
どこからが夢なのか分からなくなる構成は面白いが……
クライマックスに差し掛かっても盛り上がり切らず、
「あ、もうここで終わりか」とやや拍子抜けしてしまった。
それでも見事な様式美と不穏な雰囲気には心惹かれる。
もう一度料金を払ってまで観ようとまでは思わないが、
テレビや衛星放送で放映されていたら僕は多分最後まで見入ってしまうと思う。
という訳で、観て損ナシの3.5判定!
にしても、人が人を恨む理由は数百年経っても大して変わりがないようで。いやはや。
〈2014.09.13鑑賞〉
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余談:
『東海道四谷怪談』は江戸時代初期に起きたといわれる
出来事を色々ミックスさせて創作された怪談話だそうな。
実は伊右衛門とお岩のモデルとなった夫婦は仲が良かったという説もあるとか。
とはいえ云百年前の人の恨み辛みが未だに語り継がれているというのはやはり不気味な話で、
その物語が繰り返し語られる事・演じられる事により、物語に某かの力が宿るのではという気がする。
いわゆる言霊みたいな。
案外この映画のヒロインも、長く語り継がれた物語に宿る何かに憑かれたんじゃないか……
そんな感じも受けたり受けなかったり。