「映像美が秀逸な今年一番のファンタジー」ムード・インディゴ うたかたの日々 もしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
映像美が秀逸な今年一番のファンタジー
とにかく幻想的で幻夢的であり、全ての演出がストーリー自体のポエティックな要素をよりファンタジーにした本当に夢の様な映画でした。時間があっという間に感じられる刹那感と見た後の白昼夢をみたかのような脱力感が今年一番のファンタジーだったことを実感させるに十分な感覚に陥りました。
話自体は、働かなくても暮らしていけるお坊ちゃんが恋に落ちて、皆に祝福されて幸せな日々を過ごすものの、愛妻のクロエが肺に蓮の花が咲くという奇病に侵され、それを治すために全財産をはたいて、最後は自ら働いて…それでも愛する人を救えないというシンプルで残酷な儚いストーリーです。
でも、そのストーリーの中には驚くほどの映像美と仕掛けとユーモラスの連続で見るものをその世界にどっぷり引き込む素敵な映画でした。
ゴキブリのように這い回るベル、人が中に入っているかのように調理方法を教えてくれる料理番組、人の顔をしたネズミ、望遠鏡のついたナビゲーションシステム、ガラス張りの豪華な車…前半の幸せな生活には驚くほどのファンタジーとユーモアに満ちた演出に彩られ、コランとクロエの幸せな生活はこれでもかというくらい華麗で愉快で彩りどりの世界でその幸せや楽しさをふんだんに伝えてくれます。
でも、クロエが病に犯されてから物語は本質に…演出も次第に色を失い、光を失い、苦しさと悲しさと混沌にみちた生活を見事に表し、感情移入をせざるをえないほどの、悲しい話になっていきます。その悲しさ、儚さはクロエが病状に伏せるベットの部屋が日に日に光が入らなくなり、ついに閉ざされてしまうシーンや、コランが棺桶をもって森の中に運んでいくシーンでピークに…
ただのファンタジーと思えばそうかもしれませんが、僕には、うまくいかなかったら…ということを考えてもじもじしていいるコランに、クロエが「二人で居られるなら何度でもやり直せる」と言った2人の始まりが、2人で居られなくなって終わるという切なさや、その過程で、今まで人間的な生活とは無縁だったコランが、たった一人の人のために働き、悩み、苦しみ続ける…いろいろな不幸や不条理が遠慮なく押し寄せてくる…生きるって大変な事だなぁ…と考えさせられました。
と、難しく考えても仕方ないのですが、間違えなく今期一番のファンタジーでした!