劇場公開日 2013年8月30日

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オン・ザ・ロード : 映画評論・批評

2013年8月27日更新

2013年8月30日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

父親とフロンティアの喪失によってもたらされた作家ケルアックの覚醒の瞬間

ウォルター・サレス監督の「オン・ザ・ロード」は、ビート文学を代表するジャック・ケルアックの同名小説の単なる映画化ではない。サレスは主人公サルを通してケルアックの複雑な内面に迫り、作家として覚醒する瞬間を鮮やかに描き出している。

それができたのは、サレスとケルアックに共通点といえるものがあったからだろう。ブラジルで成功を収めたサレスは、「ダーク・ウォーター」でハリウッドに進出してはいるものの、アメリカでは異邦人である。ケルアックは、ニューイングランドに移ってきたフランス系カナダ人の子として生まれ、フランス語を母語、英語を第2言語として育った。

この映画には、サルが母親と二人だけのときにフランス語で会話する場面がある。彼は作家を目指しつつも、英語ではまだ自分の文体を完全には確立していない。そんな彼がディーンに魅了されるのは、この型破りな男にアメリカを強く感じるからだ。西部出身のディーンはサルにとってカウボーイであり、かつての開拓者と同じように西へ向かうことから始まる旅には、フロンティアが意識されている。

サルとディーンの性格や生き方は対照的だが、実はどちらも父親の喪失に苛まれている。そこで思い出されるのは、かつてサレスがあるインタビューで、ポルトガル語では父(pai)と国(pais)がほとんど同じだと語っていたことだ。この映画では、そんな独自の視点と原作の世界が巧みに結びつけられ、父親の喪失がフロンティアの喪失に重ねられていく。そして、サルが喪失という現実を受け入れたとき、彼のなかに旅の記憶が鮮明に甦り、言葉によって新たな空間が切り拓かれていくことになる。

(大場正明)

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