ザ・コール 緊急通報指令室 : 映画評論・批評
2013年11月26日更新
2013年11月30日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
白昼のレスキュー・サスペンスに仕組まれた恐怖の陥穽
ショッピングモールで何者かに拉致された少女が、疾走中の車のトランクから911(日本の110番のようなもの)にSOSコールをかける。それを受信した女性オペレーターの救出活動を描くサスペンス映画である。
ハル・ベリー扮する主人公は「助けて、何とかして!」と泣き叫ぶ少女を落ち着かせ、勇気づけていく。そうして車の居場所や犯人の特定につながる情報を収集し、警察に手がかりを提供する。これまで映画でほとんどスポットが当てられなかった911オペレーターの仕事ぶりをリアルに描出。主人公と少女の切迫した会話をスピーディなカットバックで見せ、白いペンキなどの小道具を用いて巧みにスリルを盛り上げるブラッド・アンダーソン監督の職人技が光っている。文句なしの面白さだ。
さらに白昼のアメリカ西海岸で繰り広げられるこの映画は、夕暮れ迫る中盤すぎに王道のレスキュー・サスペンスから異形のノワールへと変貌を遂げていく。その伏線となるのは、主人公が別の少女の救出に失敗してしまうプロローグだ。正体不明の不法侵入者を、不気味な“影”のように表現したアンダーソン演出がここでも冴えている。このときの致命的なミスによって心に傷を負った主人公は、その痛手を克服するために新たな少女拉致事件に深入りしていくのだ。
そして、ついにはトラウマの“影”がおぞましい“闇”へと膨張するクライマックスの何と異様なこと! さんざん手に汗握らせ、観る者を倒錯的な恐怖の陥穽に誘い込む作り手たちの罠。驚愕の結末にも唖然としてほしい。
(高橋諭治)