二十四の瞳 デジタルリマスター版のレビュー・感想・評価
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瞳を翳らすものへの怒りと平和への願い
Blu-ray(デジタルリマスター2007)で2回目の鑑賞。
原作(角川文庫版)は既読。
原作は成人してから読みました。本当は10代の時に読むべきだったかもしれません。それでも、素朴な文体に秘められた力強いメッセージに、深く心を打たれました。
おなご先生(高峰秀子)と子供たちの交流が心暖まるものなので、その後に待ち受ける不況や戦争がもたらす悲しみとやり切れなさが、余計に胸に響いて来ました。
暗い時代の波は小豆島にも押し寄せ、教え子たちも否応無しに飲み込まれてしまいました。その理不尽さたるや。子供たちの歌う平和な唱歌が軍歌へと置き変わっていく。
貧困のために学校に来ることもままならず、家の手伝いのために勉強も出来ない。子供たちを取り巻く状況に、歯痒さを噛み締めるおなご先生の表情に胸が痛くなりました。
キラキラとした美しさを湛え、希望に満ち溢れていた瞳が次第に翳っていき、戦争によって無惨に踏みにじられてしまう彼ら彼女らの命に、心が締めつけられました。
戦争への怒りと平和への願いを弱者の目線を通して痛切に訴え、瀬戸内の素晴らしい風景と共に叙情的に描くことで、普遍的な暮らしが破壊されてしまう理不尽を浮かび上がらせた名作だと云うことを改めて感じました。
このようなことが二度と繰り返されてはならない。何よりもいちばんあってはならないのは、子供から夢も希望も奪い去ってしまう世の中をつくってしまうこと。それを防ぐのが大人の役目であり責任であると痛感しました。
[余談]
高峰秀子の演技が素晴らしい。
まさに名女優だと思いました。
※修正(2024/05/17)
「こいしせんせー!」しんみりした名作。
学生の頃行った四国で、それまで小豆島自体知らなかったのにたまたま知って渡ってみた小豆島で、たまたま知ったこの作品。古いし長いんでずっと敬遠していたのですが、やっと観る機会に恵まれました。いやー、良かった。確かに名作。戦後9年目に公開されているみたいなので、当時は同じような経験をした方が観ていたのではないかと思われます。そう思うと今観るより感動もスゴかっただろうなぁ。
見始めは古くて、何言ってるかわからなくって、ちょっと観るのがしんどいかもっと思ったのですが、いつの間にかどっぷり浸ってました。長い映画には長いだけの理由があるものですよね。子供の成長、戦争があったゆえの悲劇を十分に描くにはこれだけの上映時間が必要だったのかなと思います。ゆっくりと時間をかけているからラストの大きくなった子供達と会うシーンは余計に感動的です。個人的にはラストが今まで淡々と積み重ねて来たものがブワァァっときて一番泣けました。
正直、高峰秀子さんは初めて観たのですが、若い頃から歳をとった演技まで上手いですね。不思議なのは20代前半で先生になったとして、そこから20年経ったとしても40代前半のはずなのですが、最後の方はもう60歳ぐらいに見えてしまいます。歳取らせ過ぎではなかろうか?
1954年のキネマ旬報ベストテンで「七人の侍」を抑えて一位になったのも納得です。もし誰かに古い映画紹介してと言われたら「七人の侍」よりこちらを勧めます。
なかなかの感動作でした
総合85点 ( ストーリー:85点|キャスト:80点|演出:80点|ビジュアル:60点|音楽:75点 )
映画が始まってすぐの場面、村人と生徒の科白の棒読み具合が酷いし映像も音声も質が低くて、最初の印象は良くなかった。だけど物語が進むにつれてだんだんと話に引き込まれていく。
昔ながらの風景とやたらと流れる童謡が戦前の情景を映し出して郷愁感を醸し出す。原作にもあったが、この当時は女性が自転車に乗るだけで白い眼で見られ異端視されたという。そんな田舎の閉塞感を感じて窮屈で仕方がないが、それでも美しい素朴な日本を感じ取れるし、当時の人々の生活のいい部分も悪い部分もよくわかる。映画の中では、「この映画が製作されたのは物語のはじめは今から20年もまえのこと云々」という文が冒頭に出てくるが、21世紀から見ればわずか20年程度後のまだ戦後間もない時に制作されているわけだから、この時代の情景がひしひしと伝わってくる。製作者と出演者の多くがこの激動の時代を実際に生き抜いた人々だからだろうか、いかにも現代の俳優が昔を演じていますという感触がなくて、場面場面に登場する人物の様子や所作が自然だった。
そして何よりも教師と生徒との触れ合いが優しく悲しい。子供の教育は社会情勢と家庭事情により二の次にされざるえない時代の村で、幸せな時間を共有し自分を慕ってくれる生徒たちが、現代日本とは全く異なる道を歩まざるを得ない姿を目の当たりにした。そして高峰秀子演じる先生と同様に、彼らを心配してのめり込んだ。そして追い打ちをかけるように戦争が家族と生徒を奪っていく。よく反戦映画とも言われるが実際はそれだけにとどまらず、その時代の抱える社会問題を含んでいる。そしてなんといっても一人の教師の半生と彼女と生徒との間の繋がりが感情豊かに描かれている。
古い映画だし観る前はあまり期待していなかったのだが、この年のキネマ旬報ベスト・テンで「七人の侍」を抑えて第一位に選ばれたそうである。「七人の侍」ほど著名ではないが、いい意味で最初の期待に反して、これはなかなかの秀作であった。
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