ブリングリング : 特集
ファッショナブルな“若者向けガールズ映画”? 違う!
現代社会に生きる10代をありのままに映す“映画ファンこそ見るべき”硬派な一本!
パリス・ヒルトンやオーランド・ブルームなど、ハリウッド・セレブの豪邸を標的にした窃盗事件の犯人は、実は10代の少女たちだった──今なお全米メディアを騒がせるスキャンダラスな事件の全貌を描く「ブリングリング」が、12月14日に日本公開。一見すると“ガールズムービー”を思わせる本作は、硬派な映画ファンにこそおすすめの本格実録作品なのだ。
■ハリウッドを激震させたセレブ専門“ティーン窃盗団”の実話を完全映画化!
この《究極のリアリティー・ショー》は、映画ファンを間違いなくゾクゾクさせる!
陽光がまぶしいロサンゼルスの街並みを、セレブリティ顔負けのハイブランドに身を包んだティーンエイジの少女たちがかっ歩する。高級車を乗り回し、パーティに明け暮れる若者たちの姿を描く赤裸々な映画、それも“キラキラしたやつら”の意を持つ「ブリングリング」がタイトルだと聞けば、“ファッショナブルなガールズ映画”を想像してしまうかもしれない。
だが、本作は違う。彼女たちが身にまとったファッションは、実はすべて“盗品”。それもパリス・ヒルトン、オーランド・ブルーム、リンジー・ローハンら実在のハリウッド・セレブからせしめた被害総額3億円にものぼるお宝だ。
映画「ブリングリング」は、10代の少年少女たちによるセレブ専門窃盗団という全米メディアを騒然とさせた実在の事件を基に、現実と虚構、善と悪の境界線を見失った現代の若者たちをありのままにさらし出す、硬派かつスキャンダラスな問題作なのだ。
「10代の少女たち」「ハリウッド・セレブ」「ヴィトン、シャネル、ルブタン」「窃盗」──キャッチーでセンセーショナルなキーワードは、きらびやかな映画的かつスリリングなフィクション世界の雰囲気をかもし出す。だが、本作で描かれる世界は、まぎれもない事実。2008年から09年にかけて引き起こされ、盗んだファッションで着飾った自分たちの姿をSNSで披露し続けたほか、逮捕されてからもワイドショーやリアリティ番組に出演して脚光を浴びたティーン窃盗団“ブリングリング”の事件を描くのだ。果たして、こんなことが実際に起こりえるのか?というほどに現実離れした設定だが、実際に起こったのだから嘘じゃない。限りなく虚構的でありながら、リアリティあふれる実録モノだという不可思議な“重み”の中で、被害総額3億円の事件の全貌に迫るのだ。
「ハリウッド・セレブの自宅は一体どうなっているのか?」という、誰もが心の奥に隠し持っている“覗き見”性。本作はこうした我々のゴシップ趣味も大いに刺激する。ワイドショーやSNSにおけるセレブたちのスキャンダラスな姿が映し出される画面に挿入されるほか、台詞の中でセレブのうわさ話が実名で飛び交う。極めつけなのが、実際の被害者でもあるパリス・ヒルトンが、犯人たちと会ったというパーティの再現シーンに出演し、ロケ地として自宅を提供していること。自らの写真パネルが並ぶ階段やゴージャスなインテリア、無数の靴が並ぶシュー・クローゼットにクラブ・ルームなど、本物のヒルトンの所有物が映し出され、画面は異様なまでの“生々しさ”を帯びる。リアルを超えたリアリティが見ものだ。
ネットとリアリティショーによる情報の洪水にさらされ、現実と虚構の境界線を失って生きる現在の10代の姿を鮮烈に追ったのは、「ロスト・イン・トランスレーション」「SOMEWHERE」のソフィア・コッポラ監督。自分が何者なのかを確信できないまま生きる人々(特に少女)の姿を、甘く感傷的な“おセンチ”なムードで描いてきた彼女だが、「10年前では考えられなかった」という“今”を象徴する事件を題材にした本作では、過度に対象に近寄らず、ただひたすらにティーンたちの姿を活写する。本作が遺作となった名カメラマン、ハリス・サビデス(ガス・バン・サント、リドリー・スコット、デビッド・フィンチャーらの作品で活躍)のアイディアという、丘の上からガラス張りの豪邸をロングショットで見据え、盗みを働く主人公たちを延々と捉えるシーンを筆頭に、ドキュメンタリーをも思わせる今回の作風は、まさに新境地と呼んでも過言ではない。ファンはもちろん、これまでの作品が苦手だったという硬派な観客にもおすすめだ。
■「ハリー・ポッター」のハーマイオニーが、すくすく育ってこんなに“ビッチ”に!
ここまでやるのか!? これが《エマ・ワトソンの正しい使い方》!
「ブリングリング」の高いクオリティを、“実録ドラマ”“スキャンダラス性”“映像作家性”からここまで述べてきたが、これらとは別の次元で、見る者に“最大の衝撃”を与えるのはエマ・ワトソンに違いない。
彼女が本作で演じるのは、窃盗団のメンバーの1人でモデル志望の美少女ニッキー。「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー役で世界を虜にした彼女だが、今回はその優等生イメージを完全に捨て去り、ホットパンツやキャミソール、露出度の高いドレスに身を包み、欲望のおもむくままに盗みを繰り広げるセクシーな“ビッチ”姿を披露するのだ。
「主人公たちはリアルなティーンであることが重要だった」というコッポラ監督の要望に、ワトソンは「ニッキーは、ファッションというよりも、ホットでセクシーに見せるためのものに興味を持っている」という役作りで回答。「だから、ケバくてタイトであればあるほどいい。衣装合わせの時も『ニッキーはブラを見せたいのよ。ブラもショーツのラインも胸の谷間も全部見せるはず』という衣装デザイナーのアドバイスが、私を役に入らせてくれた」と語る程の姿を見せている。
ここまでやるのか?と驚かずにはいられない、“エマ・ワトソンの正しい使い方”も見逃せない。
■日本の若者はなぜソーシャルメディアで炎上を起こすのか?
《ITジャーナリスト・佐々木俊尚》がティーン窃盗団との共通点を明かす!
ネットの発達によって、情報の洪水にさらされつつ、公私の境界があいまいになった若者たちの姿を描く「ブリングリング」。そして、同じくネットを通じて不用意に自分たちの悪ふざけを暴露し、SNSを炎上させてしまう日本の若者たち。この2つの現象に、遠そうで近い共通の匂いを感じた映画.comは、日本の炎上問題に詳しいITジャーナリスト・佐々木俊尚氏にコンタクトを取った。「ブリングリング」を見た佐々木氏は、果たしてどのように感じたのか。現代アメリカのカルチャーと日本の若者たちとの共通性が、今明かされる。