劇場公開日 2014年6月14日

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私の男 : インタビュー

2014年6月13日更新
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二階堂ふみ、熊切和嘉監督との出会いがもたらしたデビュー6年目の風格

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熊切和嘉監督との出会いが、二階堂ふみをさらに大きく飛躍させた。初対面時に「この人と一緒に映画を作らなきゃいけない」と直感。そしてもたらされた作品が、中学時代に愛読していた桜庭一樹氏の直木賞受賞作「私の男」というのも実に運命的だ。極寒の北海道で流氷の海に飛び込むことにも一切の迷いを見せず、ヒロイン・花の濃密な16年間に全身全霊を傾けた。日本映画をこよなく愛し、撮影現場と真摯に向き合い続ける19歳。デビューからわずか6年で、既に日本映画界を支える風格すら漂わせていた。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

二階堂に「私の男」の出演オファーがきたのは2年ほど前。熊切監督とはさらにその2年前に初めて会い、いずれ映画作りを共にすることを予感していたというから驚きだ。

「その時に何かを話したわけではないんですけれど、直感的に私はこの人と仕事をしなければいけない、一緒に映画を作らなきゃいけないって思い続けていたんです。お会いした時にずっと目が合っていたような気がして、役者と監督としてもそうですし、人間と人間として言葉じゃないところでがっしりとつながって一緒にものを作ることのできる方だと思って、すごく魅力を感じました」

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天災で家族を失った10歳の少女・花が、遠縁に当たる淳悟(浅野忠信)に引き取られる。北海道・紋別で寄り添うようにひっそりと生きていた2人だが、花が高校生の時に起こったある事件がきっかけで東京へ。禁断の愛、サスペンス、そして人間の情念、業の深さがあぶり出されるセンセーショナルな内容だ。

撮影は昨年1月に紋別でクランクイン。冬の北海道、しかもオホーツク海を望む地の寒さが身に応えないはずはない。しかし、流氷の海にもちゅうちょせず、実に4回も飛び込む女優魂を見せた。

「撮影はいずれにしてもハードなので、流氷に入るのはどうだったのかとよく聞かれますが、命に危険がない程度の防御はしていますし、リアルだからこそ出せる雰囲気や迫力を大事にしたくて。他のシーンも寒かったけれど、それが気持ちよかったです。周りを見ても何もなくて白い雪だけの所もありましたし、そういう真っ白な世界だからこそ、2人だけのすごく小さな世界が映えるロケーションだったと思います。熊切組に自分の身を置くことができる幸せを感じていました」

北海道ロケを終え、東京での撮影まで2カ月ほど間が空き、その間に初舞台にも挑戦したが、常に花のことは意識し続けていたという。それほどまでほれ込んだ役にとって、相手役となった浅野の存在も大きかったようだ。熊切監督を加えた3人の“共犯関係”がつむいだ、静ひつでありながら激しくもある16年という日々が、しっかりとスクリーンに焼き付けられたと自負する。

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「3人の関係性に私はすごく満たされていました。年齢幅のある役でしたので、見た目の作り込みは徹底的にやったつもりです。中身に関しては現場で感じるものを大切にしたかったので、花が大人になった分、淳悟は老いるというところを見て感じながらやっていました。浅野さんは、カメラが回っていないところでも花と淳悟の関係という空気感で接してくださいましたし、そういうものがスクリーンに出るんだなと完成した作品を見て思いました。これはいいものになるんじゃないかという現場で感じていたものを超えたすごさがありましたね。大きな財産になりました」

充実した撮影だったからこそ、現場の良さを再認識できたともいえる。その現場で常に多くを学び糧としているが、プロとしての意識レベルも相当高い。

「一貫して思うのは、映画は1人で作っているものではない、自分は俳優部の1人として参加しているだけであって、被写体のひとつでしかないということ。監督、キャストがいて録音部、照明部といろんな部があって成り立っているんだと毎回感じています。私はそれがすごく好きで映画のお仕事を続けているので、今回も映画の現場はいいなって思いました。ただ、現場に行きたい気持ちは大前提ですけれど、変な意味ではなくて私はプロとして仕事をしているので、面白いものに魅かれているわけですが、食べていかなきゃいけないですし、割と仕事という見方もしています」

「私の男」は、モスクワ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。日本映画の隆盛を願いつつ、自らも世界を見据える二階堂にとっても大きなきっかけになりそうだ。

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「日本映画の面白さを伝えることはすごくいいことですし、私は邦画の世界がすごく好きで、邦画、洋画関係なくワールドワイドにいろんな方に出会いたいと思っているので、いろんな方にこの映画を知ってもらえるいい機会だと思っています」

どん欲にキャリアを重ね、昨年も「脳男」、「地獄でなぜ悪い」、「四十九日のレシピ」と話題作に立て続けに出演し、ブルーリボン賞助演女優賞などを受賞したがおごりは一切ない。熊切監督のように、今後現場を経験したい監督を問うと「いっぱいいますねえ」と含みをもたせた。

「多分、そういう方とはいずれご一緒できるんじゃないかなと思っています。いつかのこともそうですけれど、とにかく今は目の前のことにしっかりと取り組むことが自分にとっては大事だと感じています」

その積み重ねが多彩なフィルモグラフィとなり、今後も「渇き。」、「日々ロック」など公開作が続々と控えている。「自分的にはそんなに急いでいるわけではないですし、のんびりやっていければと思っています」という言葉も謙そんにしか聞こえない。確実に日本映画界の中枢を進むであろう、二階堂の動向からますます目が離せなくなってきた。

インタビュー2 ~熊切和嘉監督が「私の男」でたどり着いたひとつの頂上

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