レイルウェイ 運命の旅路 : 映画評論・批評
2014年4月15日更新
2014年4月19日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー
戦争に引き裂かれた心の傷とその再生の軌跡を美談化せずに映画化
気難しげな人物を演じさせたら天下一品のコリン・ファースが仏頂面で列車に乗っている。彼が演じる中年男エリックはどうやら善良な鉄道マニアらしく、ニコール・キッドマン扮するヒロインとのぎこちない会話にふっと温もりが流れる。ロマンチックな大人のおとぎ話でも語られそうな雰囲気の導入部だ。しかし、のちに妻となるヒロインもつゆ知らない心の奥底が明らかになるにつれ、物語は戦時中の悲劇へとさかのぼっていく。幼い頃から鉄道を愛して育った連合軍の兵士エリックは日本軍の捕虜となり、皮肉にもタイとビルマを結ぶ“死の鉄道”の建設に駆り出され、壮絶なトラウマを負ったのだ。
実在の主人公エリック・ロークマスの回想録を原作に、日本兵による拷問シーンも描いた本作は、物語の背景がだぶる「戦場にかける橋」よりはるかに痛ましい内容だ。日本兵への怒りと憎悪が渦巻くエリックの心情に寄り添った演出や音楽が、いっそう重苦しさに拍車をかける。戦争の傷を癒すのは容易ではない。映画はその残酷な現実をまざまざと突きつけてくる。だからこそ終戦から何十年もの時を経て、エリックが日本軍の元通訳、永瀬隆との決闘に臨むかのような緊迫感ほとばしる再会のエピソードがずしりと迫ってくる。この永瀬というもうひとりの実在の人物は、本作のしょく罪というテーマを担う重要なキャラクターだ。その複雑な心中を寡黙に体現した真田広之がすばらしい。
実際のエリックと永瀬は再会後に長年の友情を育んだそうだが、映画は最も“泣ける”美談になりうるその部分はあえて映像化していない。メロドラマ化を避けて観客の想像力に託した作り手の賢明な判断が、慎ましくもドラマチックなエンディングに結実している。
(高橋諭治)