「絶望という名の列車は停まる、微かな希望という名の駅に」スノーピアサー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
絶望という名の列車は停まる、微かな希望という名の駅に
「殺人の追憶」「グエムル」「母なる証明」などの傑作で知られる韓国の天才、ポン・ジュノの初英語作品。
監督は韓国人、原作はフランスのコミック、キャストはアメリカ人、イギリス人、韓国人…。
作品の内容にも相応しいグローバルなアンサンブル。
監督は、たまたま読んだコミックの内容に魅了され、映画化を熱望したそうだが(Wikipediaより)、確かにこの内容には惹き付けられる。
温暖化に対処する為に開発された冷却物質の思わぬ副作用、再び氷河期に突入した終末世界、生き残った人々を乗せて永久に走り続ける列車の謎、その列車内の厳しい階級制度、そして反旗…。
今の世、もしくはいつ起こっても不思議ではないこれからを予感させる。
貧困層が暮らす列車の最後尾の環境は最悪。
富裕層が暮らす前方車両は華やかで様々な施設があり贅沢の極みだが、滑稽でもある。
見ながら、一刻も早く列車から出たくなった。
一定の空間に閉じ込められ、人はまともに生きていける事は出来ない。どんな獣にだって成りうる。
主人公カーティスが抱える過去のトラウマがそれだ。
どういう基準で選ばれたか分からない富裕層は狂信的な教えを叩き込まれ、同じくどういう基準で選ばれたか分からない貧困層は力によって制圧され、仲間は命を落としていく…。
人類の末路とは、案外こんな形なのかもしれない。
列車の外は極寒の世界。
しかし皮肉な事に、美しさと新鮮な空気を感じる。
扉一つ隔てればある自由の世界。
主人公たちが手に入れようとする、掴めそうで掴めない自由とリンクする。
アクション、サスペンス、濃密な人間ドラマ…。
エンタメ作品としても見応えあり。
安直なハッピー展開にならない辺り、ポン・ジュノ色に塗られている。
多彩なキャストは見ているだけでも楽しい。
やはり“キャプテン・アメリカ”がリーダーとなるが、ソン・ガンホが出ると場をさらう。海外作品でも存在感を発揮する真の名優だ。
出っ歯でスネ夫のママみたいなティルダ・スウィントンは…ププッ(笑)
ラスト、思わぬ動物で幕を閉じる。
全てが死滅したと思われた世界で生と種は蘇る。
微かな希望を感じさせるラストだ。