劇場公開日 2014年2月7日

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スノーピアサー : インタビュー

2014年1月27日更新
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ポン・ジュノ監督「スノーピアサー」であぶり出す「人間の本質」

鋭い視点で現実を切り取り、人間の心理に肉薄してきた韓国の鬼才、ポン・ジュノ監督が挑んだ近未来SFサスペンス「スノーピアサー」。地球温暖化を阻止するために散布された薬剤の影響で、皮肉にも氷河期が再来した地球。凍てついた大地を猛スピードで走り続ける列車「スノーピアサー」だけが、人間が生存できる場所となる。閉塞空間で生まれる階級社会。ポン監督が走らせるスノーピアサーは、人々をどこへ運ぶのだろうか?(取材・文・写真/編集部)

ポン監督は「殺人の追憶」で韓国社会の闇、「母なる証明」で悲しき親子のきずなをえぐり、富裕層と貧困層という二分された社会、極限状態での人間の本質を描いてきた。  「僕の基本的な部分なんだと思います。動物のドキュメンタリーなど特別なものではないかぎり、やっぱり人間というものや環境による人々の変化を描きたいと思っています。特に、SFというジャンルであれば、よりストレートに、リアリティというものにとらわれずに表現できると思うんです。『スノーピアサー』ではそのステージが汽車です。列車自体がひとつのシステムになっていて、システムのなかでもがき苦しむ人間というものを、よりストレートに表現できる良い機会になったと思います。この作品を通じて、人間の本質というものをより直接的に表現できたと思います」

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本作のモチーフとなったのは、1980年代のフランスのグラフィックノベルシリーズ「Le Transperceneige」。オリジナル作品で手腕を奮ってきたポン監督らしく、単なる映像化ではなく原作のアイデアをふくらませることで、強烈な登場人物とスリリングな物語を生み出した。  「原作では、最終車両の男性と先頭車両の女性が進んで行く様子を描いていますが、この映画では最終車両で暮らす人々が起こす暴動を映しています。前へ前へと攻めていく集団、彼らを防ごうとする人々の衝突が必然的に大きくなり、より強いエネルギーになるのです」  支配する者、抑圧される者の対立を基本構造としながら、最後尾車両の共通意識を革命とした点はポン監督のオリジナル要素だ。革命に燃える貧困層の集団と各々が内に秘めた思いを丹念に追うことで、特有の生々しい人間味がにじみ出、列車の動きとともにストーリーに躍動感をもたらす。

「動き、そして躍動感。映画は、モーションピクチャーと言われているように動きというものが大切だと思います。特に『スノーピアサー』は、すべてが激烈な映画にしたかった。すごいスピードで突進して行く鉄の塊(列車)のなか、すべてが衝突する激しいものしたかったんです」。ポン監督が舞台としてこだわった列車は、「ヘビのようなカーブを描きながら動き、ある時は空を飛ぶかのように高い橋を通り過ぎ」、予測不可能な状況へ観客を導く。  先が見えぬまま突き進む革命者と、秩序を振りかざす上流階級。列車という舞台同様に、ポン監督が生み出したキャラクターは強烈だ。固く革命を誓うカーティス(クリス・エバンス)、最終車両の人々を支えるギリアム(ジョン・ハート)、そしてスノーピアサーのすべてを司るウィルフォード(エド・ハリス)。なかでも、ひと際異彩を放つのは、ティルダ・スウィントンが怪演した上流階級の“顔”メイスンだ。

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第64回カンヌ映画祭で意気投合したことをきっかけに、脚本執筆中だったポン監督は、中年男性から女性にメイスンの設定を変更。「ティルダさんはこの提案をとても気に入ってくれて、変わったアプローチをしようという形で進みました。なぜだかわからないけど、ティルダさんは変身というより変形に近いほど自分のルックスを変えてみたいとまで言ってくれて(笑)」。スウィントンとは初の現場だったが「もう3、4本撮っているような、10年くらい付き合いがあるように感じられました。気質やテンポがあっていたんだと思います。“女性ソン・ガンホ”さんという感じでしたね」

ソン・ガンホらポン作品おなじみの韓国勢はもちろん、エバンスやスウィントンら欧米の実力派俳優たちが物語を動かす。約8割のセリフが英語で占められており、多国籍入り乱れた現場では複数の通訳を介して会話することもあったという。そんな経験を経て「言葉、言語について考えるようになりました」。仏日独韓合作によるオムニバス映画「TOKYO!」の1編「シェイキング東京」でも「同じ気持ちを感じた」というが、本作でその思いを強めた。

「韓国人同士で仕事をする場合でも、シナリオの解釈が共有できていないとすれ違いが生じてしまうし、感情面で共有できるものがないと同じ言語を使っていてもうまくいかないことがあります。『スノーピアサー』では、みんなの心がひとつになっていたので、本当に幸せな仕事ができました。監督も俳優も喜怒哀楽を表現する職業なので、同じ気持ちでシナリオを理解していれば、言葉の問題は乗り越えられるんです。今回の現場では身振り手振りでやり取りすることもありましたが、感情という部分でわかち合えていれば、言葉というものは決して怖がる必要はないんです」

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