「絶望の氷壁に穴を穿(うが)て」スノーピアサー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の氷壁に穴を穿(うが)て
『殺人の追憶』『母なる証明』などの監督ポン・ジュノが、
国際的な実力派キャストで描く終末SF。
監督の大ファンなのでムチャクチャ楽しみにしていた作品。
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居住区、ライフライン、食糧工場、学校、娯楽スペース……
人間社会をミニマムに詰め込んだ列車内は、
風景がくるくる変わって楽しい楽しい。
密室での群衆バトル、暗視ゴーグルvs松明、ヘアピンカーブ
での長距離銃撃戦などのアクション演出もアイデアたっぷり。
個人的にはアクションエンタメとしてもかなり楽しめた。
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だが僕の興味を一番そそるのは、
列車で表現された世界の有り様。
『閉鎖生態系の維持』というご高尚な言葉を使ってはいるが、
煎じ詰めればこのシステムは、少数の富める者が緩慢な幸福
を得る為に、多数の弱者を食い物にし続ける仕組みだ。
(自分たちの)食糧や居住環境を維持するために、
増え過ぎた労働者は“削減”される。システム維持の為には、
幼い子どもですらもシステムの歯車として利用される。
この列車には、世界のありとあらゆる不公平が濃縮されている。
* * *
しかしこの物語は『富裕層vs貧困層』という
単純な図式には収まらない。
ポン・ジュノ監督の映画はいつも際どいのだ。
善悪の境目も、決断の正否も、いつも不安定に揺れ動いている。
ベストな選択は存在せず、ほっと胸を撫で下ろす結末も無い。
サスペンス、コメディ、モンスターホラー、今回であればSF
として映画ジャンルとしての体裁はしっかり保っているのに、
常に現実の生活で感じる不確かさや不安が映画内に漂っている。
本作のクライマックスでも、それまで正しいと考えてきた
価値観がひっくり返される。
一見ヒロイックな主人公カーティスの行動は、『奪う側』
だった昔の醜い自分を猛烈に悔いているが故だった。
貧困層のカリスマだったギリアムも、後続車両ではなく
社会全体を維持する為の調整役に過ぎなかった。
正義も悪もない。
この過酷な世界を作り上げたという意味で、
罪の無い人間なんてひとりもいなかったのだ。
* * *
いつも突拍子もない所からの引用でアレなのだが、
映画を観ながら『ゼルダの伝説 風のタクト』という
TVゲームのとある台詞がふっと頭に浮かんだ。
滅び去った国の王が、わずかに残されたその
王国の跡地で生きる子ども達に語った言葉。
「私たち大人は、お前たちにこんな世界しか
残すことができなかった。ゆるしておくれ」
格差、貧困、闘争、環境破壊にあえぐ過酷な世界。
この列車で生まれたヨナやティミーやグレイのような
子ども達に--今この瞬間この世に生を受けている子に、
この過酷な世界で生きることを強いるのは誰か。
言うまでもない。僕も含めた大人たちだ。
子ども達に罪は無い。だが、罰は等しく与えられる。
おかしいだろ、そんなの。
この先の世界に希望は無い?
より良い未来なんて信じるだけくだらない?
同じ台詞を、子どもの目を覗き込んで言ってみろ。
大人の決めた世界の限界を子どもにまで強制するなよ。
せめて子どもには明るい希望を見せてやれ。
未来を信じろ。突き進み続けろ。氷壁に穴を穿(うが)て。
自分の為ではなく、後ろに続く者たちの為にだ。
子ども達を包み込むように抱き合った大人2人。
自分たちのぶち壊した世界を全部ナシにして、
子ども達の未来に希望を託した大人たち。
* * *
クライマックスを迎えても、この物語がハッピーエンドで
終わるのか、バッドエンドで終わるのかは判然としない。
主人公らが命を懸けた選択も、正しかったとは限らない。
本当は、列車の中で生きた方があの子達は幸せ
だったのかも知れない。これから歩む道が
過酷であることは目に見えている。
だが、何もかも死に絶えたと思われた世界で生きる
北極熊の姿。あの姿に微かな希望を感じる。
北極熊くらいでは救われないなんてレビューもあったが、
この映画においてはそれくらいの淡い希望が似合う。
大事なのは、この先生きる場所が少しでもマシな場所になるよう、
自分の信じる方法で頑張り続けることじゃないだろうか。
終着点なんて誰にも分からないけど、
進み続けなきゃ未来もない。
〈2014.02.08鑑賞〉
浮遊きびなごさん
レビュー拝見致しました。
力はいった内容ですね。
素晴らしい。
なるほど、そういう見方があるのかと。
もう一度見てみます。
その後で少し、振り返って
自分のレビューみなおそうかと思います。
浮遊きびなごさんとは、映画のチョイスが
個人的に、すごく好みが似ているかなと
思ってます。
それなのに意見が正反対。
これまた、映画の良いところ。
面白いですね。