「踏み出せ!飛び出せ!」スノーピアサー cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
踏み出せ!飛び出せ!
スノーピアサーの「ピアサー」は、耳にピアス、のpierce。辞書を引いてみると、色々な意味がある。穴を開ける、突き刺す、突破する、突き進む、見抜く、洞察する…。ナルホド。原題そのままのカタカナ邦題なんて…と思ったが、これを超えるものは難しかったかもしれない。とはいえ、映画の魅力をダイレクトに伝える力は弱い。もどかしい。うーん…それはさておき。
とにかく贅沢なキャスト。ソン•ガンホにコ•アソン、『グエムル』のコンビ再び、が何といっても堪らない。ジェイミー•ベルの一途さや、オクタビア•スペンサーの肝っ玉母さんぶりも目を引く。ティルダ•スウィントンの怪演は言わずもがな。一方…正直、主役であろうクリス•エヴァンスは、前半ピンとこなかった。けれども、中盤の「世界最後の煙草」を吹かしながらのガンホとの会話で、印象はガラリと一変。なぜ彼は、リーダーらしく振舞おうとせず、どこかいじけたような態度でくすぶっていたのか。彼の抱える闇に、息を呑んだ。
最大の敵は、自分。自分の弱さ、ずるさ…。直視するにはおぞまし過ぎるが、そこから逃れることは出来ないのだ。また、理想のリーダーや絶対的な拠り所を探し求めても、そんなものは存在しない。本作は、非力を知りながらも、一歩踏み出すことの痛みと強さを、極寒の空気の中でじりじりとあぶり出していく。
そんな重たいテーマを扱っているとはいえ、やはりポン•ジュノ監督作品。ピリリとしたユーモアがしっかり効いている。様々な言語や文化が飛び交う車内、限定営業の寿司バー、明るく楽しく元気のよい教育の歪み、兵隊より侮れない薬物依存者たちのパワーなどなど…思わずクスリとしてしまうが、同時に背筋が寒くもなる。加えて、こんにゃくのようなプロテインタブレット、見聞きしたもの全てを活写する絵描き、車内でもてはやされる薬物など、さりげなく登場するアイテムの伏線が、後半ピリリと効いてくるところも巧い。
弱者たちが団結して革命を果たすことこそ勝利…と思いきや。物語は粗野にして美しい、壮大な結末へ着地する。がむしゃらに突き進むだけが全てではない。進む以上に勇気がいる、ある種アクロバティックな選択。行動を起こすには、鋭く広がりある視線が必要、と改めて感じた。グエムルで国家を、本作で世界を手玉に取ったポン•ジュノ監督。次なる獲物は、宇宙かもしれない。