「「格差社会、階級社会に対する怒り」だけで突っ走る暴走列車型直情映画」スノーピアサー jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
「格差社会、階級社会に対する怒り」だけで突っ走る暴走列車型直情映画
地球温暖化の改善の方策をやりすぎちゃって氷河期に突入した地球。外の世界ではほとんどの生物は絶滅し、生き残ったのは列車の中の人間と生き物たちだけ。まったくなんてことをしてしまったのでしょうか。人類絶滅の危機を描いたフィクションはたくさんありますが、その中でも最悪に愚かな設定です。しかし天才実業家ウィルフォードさんの作った永久列車のおかげで少数の人類が生き残れました。ただしいくつか問題があります。
・なぜかこの列車は永遠にぐるぐる走り続ける定めである
・外は寒いので出られない
・中は階級社会で格差が激しい
・列車内の秩序は銃と暴力で維持されている
・最下層の人たちは食料がなく共食いが発生、子どもを守るために善意ある大人は自分の手足を差し出す
・プロテインバーという食料の配給制が始まり共食いは終わる
・子どもはさらわれ機械の代わりに
堪忍袋の緒が切れた最下層の人々はついに立ち上がります。彼らの目的は列車の最前列まで到達し、ウィルフォードさんを殺し聖なるエンジンを奪うこと。まさに暴力革命です。主人公たちは敵味方双方に多大な死者を出しながら先頭車両めがけ突っ走ります。そんな彼らは一度走り出したら止まれない暴走列車のようです。暴走列車in暴走列車。ソン・ガンホのように、もう少し外をよく観察して、もう少し辛抱強く待てば、寒冷化が和らいだ地球にみんなで降り立てたのではないでしょうか。彼らの暴力革命は結果的に「社会の真相」を暴くことには成功しますが、列車は脱線し壊滅的なカタストロフィを招いてしまいます。
現実世界において、私たちは革命後の世界のほうがもっと悲惨である可能性を学んでいます。もし本作の暴力革命が成功したとしたら、支配層の白人たちが今度は最後尾に押し込められ、被支配民だった革命の戦士たちが支配層として支配する、革命戦士たちも総括と粛清を繰り返す、そんな人間の愚かさも描けばより深みが増したのでは。
監督が「虐げられた者たち」に寄り添い、「格差社会、階級社会に対する怒り」を描きたいのはよく分かりますし、そうすれば観客もそれなりに入るのでしょう。でも映画として面白いかは別です。本作はどのシーンにも既視感を覚え、新鮮味は全く感じられません。いろんな過去の映画で観たことのあるシーンばかりのような気がします。新鮮なのは設定の馬鹿らしさだけでした。
ラストで生き残った二人の子ども。彼女らは新世界のアダムとイヴなのでしょうか、それともシロクマの餌になるのでしょうか。愚かな人類はなにかやるたびに状況はますます悪化していく。監督の描く人類に明るい未来はないようです。