劇場公開日 2013年5月17日

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愛さえあれば : 映画評論・批評

2013年5月14日更新

2013年5月17日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

苦い人生を描いてきた北欧の名監督の軽やかで酸味の利いた新境地

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苦行のような人生にあえぐ人々ばかりを描いてきたスサンネ・ビアは、いわゆる“社会派”と見なされがちな監督だ。そんなビアがロマンチック・コメディを撮ったと聞けば意外に感じる向きもあろうが、彼女は日本初登場作「しあわせな孤独」から一貫してメロドラマ的要素の濃い男と女、もしくは家族の物語を紡いできた。要は、甘さと苦みのバランスだ。これまで1:9くらいで苦みがきつかった割合を7:3程度に逆転させたと言えばわかりやすいか。

南イタリアの果樹園に囲まれた別荘で催される若い男女の結婚式。出席者たちは新郎新婦も含めてトラブルの種を抱えており、その現実を客観視できない。彼らの常識外れな言動が笑いを誘う一方、「この結婚式、大丈夫なのか?」「このキャラ、そろそろキレるんじゃないか?」と思わせる不吉なニュアンスがあちこちに散りばめられているのが面白い。ロマコメ特有の予定調和を巧みに揺さぶるアナス・トーマス・イェンセンの脚本が光っている。

案の定、後半は波乱の展開が待ち受けているのだが、主役2人の恋模様はとことんロマンチックだ。ビア監督はこれまで容赦なく“苦く”描いてきた男女の幸せへの道のりを軽やかに描き、映画のキーカラーのレモンイエローにふさわしい爽やかな後味を提供する。ちなみに乳がんを患ったヒロインはデンマーク語原題の通り“坊主頭のヘアドレッサー”なのだが、まさしく“一糸纏わぬ”彼女の姿を目の当たりにした男性主人公(ピアース・ブロスナン!)が恋に落ちる瞬間が鮮烈だ。この映画、あっと驚く“酸味”の利かせ方も上々である。

高橋諭治

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