「マザーミルクも称えよ‼」マッドマックス 怒りのデス・ロード よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
マザーミルクも称えよ‼
新文芸坐にかかっていた時から観たかったのだが、なかなかタイミングが合わず劇場で観れていない。
先日読んだ「木根さんのひとりでキネマ」でも本作への愛が語られており、我慢できずBD をレンタル。この漫画、年齢も性別も好きな映画のジャンルも異なる主人公の思いにひたすら首肯してしまう。映画ファンの精神構造を実によく描けている。
で、マッドマックスに戻る。
生きる為のエネルギーや栄養源を人間の生体に頼らざるを得ない核戦争後の世界。支配者層の為の貴重なタンパク源として、肉付きのよい女性の乳房から搾乳している「牧場」が登場する。
観ながら食べていた、最近お気に入りのローソンの無添加アイスが、この画を見て格別の味わいに変わった。甘いミルクアイスが口中に広がる感覚と、トラックの横腹から注ぎ出す「マザーミルク」を飲むマックス。V 8も称えなければならないが、マザーミルクもまた称えなければならないのではないか!
また、映画に登場する車両は、あの姿で自走するのだとか。本当の主役はそのクルマたちである。マックスやその他の人物たちは、車両をストーリーで活躍させる狂言回しに過ぎないのかも知れない。
荒唐無稽なクルマたちが砂漠をひた走る。それらを舞台に繰り広げられる殺戮。気持ちいいほど他の要素は削ぎ落とされている。
少し前まで、娯楽映画はこんなだった。
馬鹿馬鹿しい設定に対して、作り手側が本気になってリアリティーを追及する。観客の求める時空を超えた映像体験を、どのような演出によって実現するのか。
考えていることはほとんどそのことだけだった。そこへ労力と金を注ぎ込むという酔狂。であればこそ、大の大人が夢中になって映画館の闇に浸っていたのだ。
行って、帰ってくる。ただそれだけの直線的なプロット。
敵と味方。男と女。強者と弱者。という単純明快な二分法。
政治的な正しさとか、マイノリティへの配慮などここでは必要ない。それらについて語る映画は、またその価値があるし、そうした問題意識を持った映画もまた必要だが。ここでは必要ない!
久し振りに画面を呆けて見続けた。