二重生活(2012) : 映画評論・批評

二重生活(2012)

劇場公開日 2015年1月24日
2015年1月20日更新 2015年1月24日より新宿K's cinema、アップリンクほかにてロードショー

昼メロ的サスペンスでありながら中国の今を照射する快作

5年間の映画製作禁止令が解けた2011年、監督ロウ・イエが中国で撮り翌年、久々の国内正式公開となったのがこの「二重生活」だ。

公開直前には再度のカット要請に抗議、自身の監督クレジットを削除した。そうした経緯に監督の変わらぬ闘志を確認し待望の一作に向き合うと一瞬、肩すかしを食らうかもしれない。夫の浮気に気づいた妻と愛人との皮肉な“共闘”を追う殺人ミステリー。ロウ監督の昼メロ的サスペンス?!――と、そんな疑惑はしかし映画を見るうちにすっきりと解消し、じわじわと表れてくる快作の真の顔に引き込まれる。

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羅生門」を中にはさんでベルトルッチ「殺し」と目配せするような雨の鮮やかな活かし方。ノワールと真正なメロドラマの交わる所でのスリルの研ぎ方。動き続けるカメラが掬う断ち切り難い情動の濃密さ。要は限りなくウェルメイドなジャンル映画をきっちりと成立させながら、ロウの映画はさらに深くしぶとい眼を社会に国に向けてみせる。男とふたりの女の周囲に人の理不尽さをめぐる小さな話を幾重にも積み重ねる。出会い系サイトを活用する女子大生、その元恋人、彼の友人でもある殺人事件担当刑事、財界の大物のドラ息子、財力で迫られて娘の事故死を示談とした女子大生の母。ちっぽけで醜く悲しくだから他人事でない人の姿は、中国の今を照射して映画の核心となっていく。“共産”の大義と裏腹に富の飽くなき追求に走る個がそのまま国の、社会の体制そのものをまさにダブルに映し出す。人と国とを象るように、浮遊し続け視点がどこか定まらない手持ちカメラの説得力がもう一度、胸に迫りくる。

「この光景懐かし過ぎる」――夫のもうひとつの家庭、つましい幸福を前にヒロインがそう漏らす。失われた革命の末路をみすえた「天安門、恋人たち」の主演女優演じるヒロインが湛えた淡い微笑み。それは、もう戻れない所まで来てしまった高層ビルと高速道路の現代中国を切り取る監督の思いとも確かに重なっていくだろう。それでも前に進むひとり。振り返り亡き子を悼むひとり。個に託された国の未来、その行方を映画は強烈に思わせる。

川口敦子

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