劇場公開日 2013年9月21日

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「ハートビート・ゾンビーズ」ウォーム・ボディーズ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ハートビート・ゾンビーズ

2013年10月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

主人公は、人間の女の子に恋したゾンビ! 全米でスマッシュヒットを飛ばした異色のラブコメ。

ゾンビと聞くとやっぱ気色悪いシーンばっかりが浮かぶ訳だけど、
この映画はゾンビが主人公でありながらそんなシーンはほとんどナシ!
ポップなオープニングからほっこり温かなエンディングまで、全編キュートで楽しい映画でした。

ゾンビ同士のユーモラスなやりとりや、ジュリーに良い(死)人と思われようとする主人公Rの奮闘ぶりにニヤニヤ。
凶暴なガイコツの襲撃や、人間vsゾンビvsガイコツの対決にちょっとだけハラハラ。
Rの恋をきっかけにして、一度死んだ人々がかつての暖かい
気持ちを思い出す様子に、こちらの胸までじんわり暖かくなってくる。

ゾンビと人間を結び付ける為に共通の敵(ガイコツ)を
持ってきたのはややヒネリが無いという気もするけど、
ま、そんな不満は些細な事だ。

やっぱり面白いのは主人公・Rのキャラクター。
心の声とはいえ、こんなにしゃべるゾンビ観たこと無い(笑)。
自己嫌悪、皮肉っぽいグチ、ジュリーへの想いに対する戸惑いまで弱気な青年ゾンビくんがしゃべるしゃべる。
一途で優しいRに少しずつ惹かれていくヒロイン・ジュリーも、
気丈だがどこかヌけてる所や、『なんでゾンビなんかに?』と混乱する様子がなんだか可愛い。

周りを固めるサブキャラもステキだ。
主人公の親友の中年ゾンビ・M。
Rを応援し、体を張って彼を守る熱さにグッと来る。
実は彼も最初と最後ではRと同じくらいに成長していて、最後のシーンには少しだけ泣いてしまった。
ジュリーの親友・ノラも陽気でグッド!
Rに会った時の第一声が「What up?(調子どう?)」てアンタ(笑)。
Rをメイクアップしてキャッキャと喜ぶノー天気さが笑える。

さて、
かの名匠ロメロ監督の『ゾンビ』に登場するゾンビは『大量消費社会
に取り憑かれた人間』の比喩であるとも言われているが(←話がカタいよ)、
『ウォーム・ボディーズ』のゾンビはいわば、人と接して傷付く事を恐れるあまり、無感動に生きる人々の姿だ。
中盤のRのセリフには胸が苦しくなる。

「何かを望むから傷付くんだ。最初から無かったと思えばいい。心を閉ざせば傷付く事もない」

……ここ4, 5年の僕とまるっきり同じじゃないすか。
そんなん言ってちゃダメよ、Rくん、寂しいこと言うなよ。

けどRくんは大丈夫だ。彼は見た目ほど腐っちゃいない。
自分の壁を壊して突き進む勇気を持っている。

この物語は、人を好きになることの嬉しさを、人と繋がることの喜びを思い出させてくれる。
傷付く事を恐れずに進めば、人生は暖かく色付くと言ってくれている。
『壁を壊せば世界が広がる』という、ストレートでポジティブなメッセージ。
素直にステキな映画だった。

ただ……
壁を壊せば世界が広がる。
そう伝わったつもりじゃいるけれど。
やっぱりそれって難しいと思える今日この頃。

〈2013.09.21鑑賞〉

浮遊きびなご