サイド・エフェクト : 映画評論・批評
2013年9月4日更新
2013年9月6日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
それぞれの人間が抱える小さな闇とその連鎖
薬の副作用をめぐる実態が次々に暴かれ、あるいはそれへのさらなる隠ぺい工作が行われ、加害者と被害者の立場が逆転する。一体どんな場所にこの物語が着地するのか。そんなハラハラが加速するこの映画の後半に、まさかそんなどんでん返しが用意されているとは思いもよらないほど、ゆったりとした時間がこの映画の前半には流れている。その時間の中で主人公たちの心の闇が少しずつ明らかになっていく前半がこの映画を見事に支えている。
冒頭に置かれた町の風景は、まさにこれから映画が始まろうとしている静かな高揚感に満ちていて、何度も見直したくなるほどだ。映画の開始前、それまでは明るかった場内が暗くなるその数秒の、なだらかで決定的な変化がそこにあると言ったらいいか。それを境に現実の自分の人生が映画の中の他人の人生にすっと入り込んでいくと同時に、他人の人生が自分の人生に入り込んでくる。そんな映画のときめきが、ここにはあるのだ。
闇を抱えた夫婦、孤独な精神科医と野心あふれる美人精神科医と彼女がかかわる新薬。それだけの要素が絡まりあいもつれ合い、思わぬ大事件へと発展する。一体どうしてそうなるのかと納得いかない思いをひきずりながらも、しかしその説明のつかなさこそが人間の抱える闇の仕業なのだと、私たちは思い始めるだろう。それぞれの人間が抱える小さな闇とその連鎖が、スクリーンのこちら側にまで広がりだすのだ。映画のときめきはまた、危険を前にした震えのようなものでもあると、あらためて思った。
(樋口泰人)