「バッドエンドではない。」かぐや姫の物語 ペッパーさんの映画レビュー(感想・評価)
バッドエンドではない。
5回くらい観てる。これからも事あるごとにまた観たくなると思う。本当に大好きな映画。
何回も観ていると、登場人物の誰にも感情移入しなくなる。冷静になって観てみると、クズだと思った男性陣の中にも、可哀想だと思ったかぐや姫の中にも、自身の内にある感情を見出すことができて、単純に人を善か悪かで区切る事自体が不自然に思えてくる。
また、登場人物の動作と物事の因果関係が矛盾なく、リアルに描かれていて、誰かを傷つけるという点で「こういった事はしない方が良い」とか、自身を傷つけないという点で「こうありたい」という姿を、この映画は静かに教えてくれる。
「生きているという実感があれば、幸せになれた」
この映画の肝はこの点だと個人的には思う。
大人になって、生きているという実感を得る事は少なくなった。半ば意識的に、半ば結果的に波風立てないように、乱されないように、面倒事に巻き込まれないように、生活している。
言ってしまえば、月の都で生活している。
映画の中で、悲しい場所、場合によってはあの世だと解釈されている月の都は、「無」のメタファーであって、決して遠い所では無くて、今この世界を生きる人々の、心の中の孤独であり、乾きであると思った。
最後の赤ちゃんの描写を観て思うのだけれど、たぶん、かぐや姫は月に行った後も、生きているという実感を思い出せたとしたら、もしくは思い出そうとしたら、いつでも地球に戻ってこれるんじゃないかな。また(月においては)罰として地球に降ろされるのだから。心の乾いた場所からの帰還の可能性を思った。幾ら心が乾いてしまっても、無になっても、いのちの記憶を思い出せば、思い出そうとすれば、いつでも戻って来られる…
「無」の否定は、あらゆる「有」の肯定であって、更にこの映画は、一度無になった心の、有への帰還までも、肯定してくれる。色々なものに感動したい、人の温もりを信じてみたい、と、そっと思わせてくれる。
この映画は決してバッドエンドではない。