「大人になったから理解できた」風立ちぬ すーあんこさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になったから理解できた
ジブリの中でも宮崎駿作品が大好きで、今まで駿作品を何度も繰り返し見てきましたが、風立ちぬだけは、レビューや、色々な考察を見て、どこか忌避しているところがあり、今日初めて最初から最後まで見通しました。
「堀越二郎が仕事に没頭して病気に侵された妻を放ったらかしにしている」、「カプロー二は『ファウスト』のメフィストで、望みを叶える代わりに菜穂子を連れて行った」などの感想や考察がありますが、私は純粋に、この映画を見て、ただただ感動しました。
まず、堀越二郎さんは、困った人や助けを求める人に分け隔てなく手を差し伸べるような優しさや、困難が立ちはだかっても諦めずに立ち向かう勇敢さを持ち、嘘や偽り、羞恥に誤魔化されない清廉な心を持つ、格好いい男です。駿作品のどの主人公にも劣らない、素晴らしい人物です。
この物語は、菜穂子さんとのラブストーリーのように評価をされる方が多いですが、私は、そこに重きが置かれているわけではないと思いました。
日本が、貧乏で武力的にも弱い時代。堀越さんは、最初は美しい飛行機を作りたいだけだったかもしれませんが、そのためには、お金を工面するため軍が要望してくるような戦闘機を作らなければなりません。また、仕事を進めていく中で、日本と世界との飛行機製造技術の乖離を突きつけられ、いつしか日本の先頭で、飛行機製造を担っていくことになります。堀越さんは、決して聖人ではないと思います。自分の夢を叶えるために、戦闘機を作る覚悟もしていた。誰しもが経験したことのある、夢と現実との葛藤です。そして、多大な融資を受けた仕事を遂行する重責を感じる日々。その堀越さんのロマンに加えて、計算や、理論では推し量れない、菜穂子さんとの「愛」がある。この、温かく我儘な二人の愛は、言葉で片付けられません。
菜穂子さんが結核に侵されている時、堀越さんが煙草を吸うシーンがありますが、レビューでは、「堀越さんが冷たい」と書かれてあるものがありました。でも、物事の分別よりも今の二人の時間を優先してしまうことってあると思うんです。二人は、一日一日を大切に、人間的に生きていくことを望みました。堀越さんが冷たいのではなく、お互いを想う気持ちが止められなかった、ただそれだけだと思うのです。「美しいところだけ…」というセリフで、もちろんそれもあると思いますが、菜穂子さんは、堀越さんが飛行機を完成させるまで、一緒にいてあげたかったのかなとも思います。
最初は、なぜ今まで見ていなかったのか、とも思いましたが、社会を知り、愛を知り、今だから感動できた、という気持ちの方が大きいです。日本人、全成人に見てほしい素晴らしい映画です。
日本を背負って発展させた先人達に感謝を持ちつつ、私たちの使命を痛感しながら、堀越さんのように世界を先駆け、日本を支えられるよう、明日からまた精進していきたいと思います。