劇場公開日 2013年7月20日

「若い人には分かりません」風立ちぬ 赤マントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0若い人には分かりません

2013年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

明治維新からおよそ36年を経た1904年、日本は清を相手にした戦争を始めます。その後、日露戦争を経て1910年には日韓併合を行い、日帝の時代へ突き進んでいきます。満州事変のきっかけとなった柳条湖事件を経て1941年に日中戦争へ、そして第2次世界大戦へと暗闇の歴史を重ねていきます。
折しもゼロ戦は、そんな時代のクライマックスに開発されていきます。無差別破壊兵器が禁止されている国際法の体制下では、その性能が故に、まさに日本の技術優位性を証明するかのように、大戦の中で活躍をしていきます。
体当たりで特攻する様は、技術優位性を否定する行動としか言いようがないものの、小さな機体で飛び込む様は日本人の美学をむしろ肯定する対象として崇められていたのではないでしょうか。
1945年に長崎と広島に国際法で禁じられている無差別破壊兵器の原爆が投下されるまで、日清戦争の開始から実に40年余がたち、戦争はその終結を迎えます。40年以上もの長きに渡り戦争は繰り広げられました。長い日本人の歴史の中では今となってはたった40年ですが、日本の歴史の汚点として、私たちは無視をしてとおりすがるわけにはいかない、長い長い暗闇の時間がそこには流れていました。
そんな時代の中に次郎と菜穂子は生きていました。愛し合っていました。そのことを感じるだけでも、この作品の意義があります。こうした時代が存在したことを忘れてしまった、反省の気持ちが薄れてしまった、あるいは全く認識しえない、そう感じる日本人が増えてしまったのかもしれません。
菜穂子は山に戻り、240ノットを出す戦闘機を開発した次郎の夢には、戻らないゼロ戦が語られます。山に戻ろうとする菜穂子は寡黙でやりようがない時代と愛の象徴です。次郎の夢は、戦争の存在を正当に認識したくない今の日本人の歴史観かもしれません。
最後はファンタジストらしい終わりでした。戦争は描きようがない歴史であることとメッセージする氏の気持ちが伝わる映画です。
戦後、驚異的な復興を遂げた日本。40余年に及ぶ失った歴史を忘れてはいけません。今の私たちがここにいることは先人たちの努力の積み重ねがあってこそなのです。拭い去ろうとしても拭いきれない負の時代を正面からとらえる努力が今、必要とされているのです。そのことを痛いほど感じました。

ただし、ユーミンの飛行機雲は、どうでもよかったです。次郎の声優も下手です。遊びすぎです。映画の質としては低い気がしました。

赤マント
春の深谷さんのコメント
2013年10月9日

私は年齢からすると大人のつもりですが、そのようには見ることが出来ませんでした。

この映画は戦争を描いているようには見えませんでした。むしろ、たまたま戦争の時代に生きていただけで、本人は社会や政治のあり様には殆ど興味のない人であるように見えました。つまり、飛行機オタク。美しい飛行機を作りたいという気持ちだけで戦闘機を作ってしまい、そのことに何の葛藤も感じない人。
軽井沢の草軽ホテルで外人が、『ここは良いところだ。ドイツの戦争も、満州事変も、日本の国際連盟脱退も、意識しないで済むのだから』という類のことを皮肉っぽく言うシーンがあります。これは、軽井沢にいると現実逃避が出来るというだけでなく、飛行機の洋雑誌をいつも見ている主人公についての暗喩にもなっていると思います。

この映画で戦争についての認識を新たにすることは、もともと期待されていないと思います。そういう映画ではないと思います。

春の深谷