「じんわりと良い映画だったなぁと」風立ちぬ うずまき猫さんの映画レビュー(感想・評価)
じんわりと良い映画だったなぁと
久しぶりにエンドロールで余韻に浸れる作品でした。
音声も素晴らしいので、劇場で観られて良かったと思います。
ただ、過去への回帰、宮崎駿に己の過去作のコピーを作ることをを求めている従来のジブリファンからの酷評も割と納得です。
多弁でまくし立てていた若者が、老成してボソッと一言で諭すようになった、そのような監督の円熟を感じます。そこにギャップを感じてしまうのは仕方がないでしょうね。
観終わった直後はクリエイターのエゴ、業の深さについての話かとも思ったのですが、落ち着いて話の筋を見返してみるとまた違った見方もできるなぁ、と多面的な解釈を許すのは良い作品の証明でしょう。
私は、主人公ヒロインが人のながれをかき分けて行くシーンが何度もあったのが心に残りました。
私的に解釈するならば、人の流れとは時代の流れです。
主人公は、おそらくスパイ容疑でどうにかなったドイツ国人と親交をもったため特高に目を付けられます(このあたりは曖昧でしたが)。
会社は、彼が役に立つ間は彼を守ってくれますが、そのために病める妻に会いたくても会いに行けない状況に追い込まれます。妻は結核を患いサナトリウムでの療養を余儀なくされます。
その「時代」に翻弄され、本来ならば2人が同じ時間を過ごすことは叶わなかったでしょう。しかし二人は精一杯それに対抗して、ほんのひと時ですが二人の時間を作り上げることができました。
確かに体は悲劇なのだと思います。また共感できるキャラクタがいない、という意見も分かります。「二郎も人間だったのか!」のセリフでもわかるとおり、そもそも共感を誘うキャラにしていないのですから。ただ、昨今の主人公ヒロインに同情させて安っぽいお涙を誘う物語と一線を画すのは、見終わった後「生きねば」というテーマがじんわりと浸透してくることです。
死についてかかれた物語なのに、伝わってくるのは生きることの素晴らしさです。限りある生・夢の美しさです。これはストーリーテラーとしての宮崎駿の一つの到達点と言っても良いと思います。
長々と書きましたが、きっとこの作品はもう少し周囲の状況の熱狂が冷めてからもう一度ゆっくりと楽しむ作品かもしれませんね。