「地味だからこその名作」風立ちぬ Tollyさんの映画レビュー(感想・評価)
地味だからこその名作
ジブリ映画のファンと言うわけではないのですが、予告編をみて気になったので劇場まで足を運んで見てきました。
客層は様々で、普段こういう感じの映画を見なそうな方も多かったです。
全体としては地味な構成。
山場といった山場もなく、途中でどこまで進んだのか分からなくなりましたが。
何というか、それがよかった。
元々「堀越二郎の半生を描く」とのことでしたので、伝記的要素が強そうだなとは思っていました。
実際は結構弄っているそうなので、オリジナルストーリーに近い様です。(これは見終わった後に知りました)
メインとなるのは零戦を作り出すところまで。
その後の戦時中の描写はほぼなかったはずです。
メインは堀越二郎さんなので、これくらいでよかったんじゃないかな。
零戦押しが激しいとメインが変わっちゃいますし。
別に零戦を製作する映画ではないので。オプションの一つだと考えると説明の薄さにも納得がいきます。ちなみに戦争を賛美するような映画でもないですし、兵器としての零戦を賛美するような映画でもないです。というか戦争ものだと思ってみない方がいいような気がします。メインはそこじゃないです。
全体的に今までのジブリのファンタジー色は薄いです。
対象年齢も高め(……と言っても今までのジブリも決して低くはないと思いますが)でした。
多少客層を選ぶかもしれません。他の方のレビューでも書かれていますが、結構男性的な映画だったと思います。
声優もジブリ安定の素人。これは毎回ですからマイナスにはなりませんね。
個人的には庵野さんの二郎、よかったです。監督は「昭和インテリの声」とのことでの起用だったと思いますが、まさにその通りな感じで好きです。最初は気になりましたが、集中していると気にならなくなりました。
作中で二郎がタバコを吸うシーンには少々ビックリしました。ジブリで主人公がタバコ!こんな絵あまりないぞ!なんか色気を感じました。ドキドキです。
二郎と菜穂子の恋愛描写も大人っぽい描写でしたね。
菜穂子は結核で先が短く、終盤には山奥の病院に戻っていってしまいます。
綺麗な所だけを見せたかった菜穂子。菜穂子は二郎の見ていないところで苦しんでいた様です。二郎が妹さんにそれをなじられるシーンもあります。
しかし、菜穂子はそれでよかったのでしょう。
二郎を薄情だとおもう方もいらっしゃるでしょうが、菜穂子自身が知られたくなかった。苦しんでいる姿も、青ざめる顔も見られたくなかった。そう思います。
結核の菜穂子の隣でタバコを吸うシーンがありましたが、先に外に出ようとした二郎を止めたのは菜穂子でした。少ない時間のうちにできるだけ隣にいようとする菜穂子の姿には涙がでました。
美しい飛行機を作りたいと言う二郎の願いは純粋でした。
しかし悲しいかな、誰も美しいだけの飛行機を許してはくれなかった。
零戦はツールでしかないのです。
武装していようがなんだろうが、ただの飛行機でしかありません。
人が死ぬと言うことが今よりももっと近かった時代です。現代の感覚では理解できないでしょう。あの時代のエリートのひたむきな姿。大切なもののためのまっすぐさが切ないです。
ラストで二郎が言った「一機も帰ってこなかった」。泣きました。
直接では描写されないたくさんの人々の死。
零戦の製作によって二郎はそこに関わってしまった。
しかし、彼は自らの夢の代償を知り、覚悟を持っていたから淡々と話す事ができました。
あの時代だから持ち得た人々の覚悟を感じます。
登場人物たちの行動を肯定するような内容でもありません。二郎は零戦を作らない方が良かったのかも知れませんし、菜穂子だって病院にいたほうが良かったのかもしれません。ですが、正しさなどは関係ないのでしょう。生きることを描いた作品でした。
描写されぬ裏側を感じてください。提示されたものだけを見るのではなく、ほのめかされたものを感じてください。
ほんとですね。レビューを読んでシーンを思い出しました。
となりで、たばこを吸われることなんて、何でもないくらいの、
菜穂子は、もっと大きな覚悟をもって、二郎さんのところへ来たんですね。
二郎も、菜穂子の覚悟がわかっているから、そばに置いた。
兵器として空を飛ぶのだと、分かっていても、作った。
仕事に対しても、どれほどの覚悟が要ったか。
今の時代を生きさせてもらっている自分達に、
簡単に避難できるものでは、とてもないとおもう。
カプローニさんのせいにするわけにもいかない。
でも、ものを作るものの業もある。
今の私たちは、劇中の軽井沢にずっと閉じ籠ってるようなものだ。
ココハイイトコロ、ゼンブワスレル。
ここから、出なければ。一生懸命に今の生き方を考えなければいけない。
コメントなのに、勝手な意見をいっぱいのっけてしまって、
意にそわなかったら、すみません。