「深い余韻を残す」風立ちぬ ドリモグさんの映画レビュー(感想・評価)
深い余韻を残す
とっつきやすいが、奥が深い。
宮崎アニメ・ジブリというと、おこちゃまからおじいちゃん
おばぁちゃんまで。まさにその通り。
観客の年齢層が幅広いのだ。
誠に失礼な話だが
本当は、この風立ちぬを見ようと思った最初のきっかけは、
庵野監督がヱヴァ放り出して何してるか
観てやろう、いや見ずにいられるわけがないと恨めしいもの。
前言撤回、事前知識を積めば積むほど、5年かけた思いを
汲み取れば汲み取るほど、そういう気持ちはかききえた。
作品に真摯に向き合う覚悟と、お勉強が必要。
最後までお行儀よく座席に座っておクチにチャックするくらいの
最低限度のマナーが必要だ、とくに大人。
おこちゃまのがきちんとおとなしく見てたぞ。情けない。
ヱヴァQとエンドロール付近を比べると、いかにお行儀のよい
訓練された観客に恵まれていたのかと痛感せざるをえない。
エンドロール後に次回予告がありうるヱヴァじゃぁ、みんな
お行儀よくおクチにチャックしてお座りしてるのが暗黙の了解で
当たり前だ。でも、
ジブリやほかの映画じゃ、ヘタするとエンドロールで立席
するお客がいるわけだ。だからこそ、余韻を楽しめず
潰されてしまう。これが悲しかったのだ。
きちんと最後まで向き合って、どう感じたか?
それがすべて。
ゼロ戦について知識を積んでいない分、主人公次郎については
少なくとも好印象以外の感情を持たなかった。
弱き下級生がいじめられるのを放っておけなかったり、
ドアなどの開け閉めが丁寧で、所作や存在自体が
上品で凛としていて好感が抱ける。
混雑した列車で席を譲る。もう、数えきれないくらい
この人いい人だな描写だらけだ。
作品についてはテーマに直結するものが多すぎて
宮さんあんた頑張りすぎだよと
映像を見ていて痛感するものがありすぎた。
とっつきやすいが根深いテーマ。その奥深さはまるで底なし沼みたいだ。
それこそ他人がどう感じたかなんて関係ないのだ。
99人がこの風立ちぬをこきくたそうと、自分は100点をあげたい。
5年かけてこの作品を作り上げ、形にし世に送り出したこと。
もののけ姫で込められたテーマが重すぎるとさじをなげてしまった自分。
人間だけなく、風景が、風が、エンジンが、ネジひとつひとつが
脈打つ映像。お空の雲、青さ。そんなとりとめのない当たり前のもの
たちが作り出すあの空間と雰囲気。
こういうのは宮崎さんならではの味だ。
劇場でだからこその音響、映像の迫力。
ジブリファンだというのなら
せめて一度は宮さんが5年心血を注いだ映像を目に焼き付けるべきだ。
さばのほね、美しい、シベリア、あなたがこれを見て
残ったフレーズは何ですか?
余韻を深く残す作品です。
エヴァ好きとして見ると台詞の「2号機」とかドイツ語を話す庵野監督
などフワァッと浮き上がりそうになる自分を抑えるのが大変でした。
確かに現実的につっこみどころは多々あるけれど。
作品単体を極力事前知識を控えて作品を見て消化してみると
この作品を劇場で見て本当に良かったと言いたい。
一番なえたのはかぐや姫の予告。
上映予定を公言してきちん守れないアニメ監督というのは
自分の中でかなり評価をさげます。
風立ちぬの最後まで、余韻に浸ってみるべき価値のある作品でした。
小さな子供を決して置いてきぼりにさせない映像の工夫や
苦心がうかがえました。
エンドロールの最後の最後まで一般のアニメと接点のない大人の
興味をひく努力をしてほしいというのは
さすがにかわいそうだ。
手書きっぽいエンドロール。きちんと向き合って味わおうとする
気持ちさえ持っていれば、
5年間かけた作品に対して失礼な行動は慎めそうですがね。
作品は最高でしたが、同じ空間を共にする観客、雰囲気で
がっかりするところが多すぎました。
こころざしの高い主人公というのは見ていてすこぶる心地がいい。
今時なかなか見かけないからこそ余計そう思う。
DVDでもう一度、振り返りたいと思えるすばらしいアニメ映画でした。
宮崎監督の作る映像がまだまだこれから見たい。