「単なる感動だけではない、不思議な余韻が残る仕掛け」風立ちぬ hcat2013さんの映画レビュー(感想・評価)
単なる感動だけではない、不思議な余韻が残る仕掛け
単なる感動だけではない、不思議な余韻が残る仕掛け
予備知識は必要ありませんでした。理解できる仕掛けがあります。
冒頭少ししてから菜穂子と接点ができるきっかけとなる震災のシーンがあります。
ここで自分は違和感が少し残りました。
まず短い、あっさりしている、何よりもまったく悲惨さがない。
モブのシーンで逃げ惑う人を追ってみました、
すると血を流している人がいないんです(たぶん)。
これは明らかになんらかの意図があることが分かる。
そこからしばらくして、カプローニとの会話
「君はピラミッドのある世界と無い世界、どちらを選ぶかね?」といわれ
しばらく思案して「うつくしいものがみたい」と返答する主人公。ここでハッキリわかります
つまり宮崎は美しいものしか描かないつもりなんだなと。
これは二郎の飛行機にたいする思いともリンクする訳です。
人が生きると言うことは綺麗なことではありません、
これは経験則からよくわかることでしょう。
その中で綺麗などといえるものは精々上澄みの数パーセント程度のものです、
その数パーセントしかこの映画では描かないと宣言しているわけですね。
がその中に狂気を潜ませる訳です宮崎という人は。
これは二郎や宮崎だけに当てはまることではないのです。
前半までは二郎のみの話しです、ここまでは二郎に共感する人は少ないでしょう。
というよりもこの美に呪われた会話すらできない人間に共感してはいけないという、
心理まで働くような仕掛けが見え隠れします。
それはシベリアを子供に与えようとするシーンでも分かる。
9.11の時ビルが炎上する姿をTVでみて、「美しい」といった音楽家がニュースになりました。
それ聞いたとき自分は非難することができなかったわけです。
自分もあのとき一瞬「何かに使えないか?」と思ったのが正直な所です。もちろん不謹慎の極みです。
職業人とはそういうものです、とくに芸術家なんてのは美しかない、
科学者にとっての人間倫理とは真理の次にある物なんです、
芸術家にとっては倫理は美の次にあるもの、それが正直な告白です。
宮崎はその告白をしている、戦争の道具である零戦を美術工芸品として上書きを試み、
関東大震災まで美しく上書きするのです。
同様に菜穂子の喀血までも美しく描くのです。
普通あのシーンでは横顔が写るはずです、が表情は見えない、
悲惨さなどの要素を排除しきって、花が散るような描写で描いてる訳です。
それをみて自分は「美しいな」と思う。
再開するシーンもすばらしいです。
今の時代とは違い女性から誘うことはできません、なので作戦が必要なんですね。
そのための間があの声を掛けないで見つめている部分です。
毎日通るであろう道の前に絵の道具をおき、
涙を流しながら「命の恩人に会うために、泉に毎日願掛けをしていた」とウソをつきます。
本当なら初めの段階で声を掛けるはずだからね。
で駄目押しで「彼女は結婚してもう子供は二人いるのよ」と聞いてもいないことをいう、
今風でいうなら「私に乗り換えて」ですが、そうはいわない訳です。
前半は共感できない心理が働く二郎のキャラクターなので、もんもんとしてしまいます。
がそのあとに菜穂子が出てきて飛びつく仕掛けになっているわけです。
彼女は狂気がない人間ですからね。
彼女は二郎の一切を肯定します、終始笑顔なんですね。唯一拒む場面がある、
それが手を離すか離さないかという所、要求はそこだけなんですよ。そこがまたいじらしい。
婚約が性急すぎるという意見もありますが、自分は十分です。
その前の戯れがあるのでそれで十分説明が付いている
二郎は「貴方のもとに届きますように」と紙飛行機を飛ばす、
菜穂子は懸命に受け取ろうとする、このシーンは重要です。
菜穂子には重要な意味があり、彼の飛行機は美の結晶な訳です、
それを受け取ることができるならば私はそこに並べるかもという淡い希望の心理が見て取れます。
普通あのように落ちそうになりながらとろうとしますか?しない。
彼女は病人だしね。受け取ると言う意味は菜穂子にとって非常な価値があるということです。
でキャッチすることができ、その後に期待の予感が残ります、
と同時に不安が残される訳です。紙飛行機はいったっきりで戻ってはこないですからね。
二郎にとって菜穂子は零戦と並ぶことができるのかというとそれは成就します。
ここにカタルシスがある。
二郎は結婚をあげるときにみたこともないような表情をする。そこは菜穂子の勝ちです。
最後に両方とも文字通り紙飛行機のように風にのって、いったっきりとなります、
そこで二郎は感謝の言葉を初めていう。
これは宮崎の言葉でもあるわけですね。それは観客に対するものではないと自分は思います。
そこもまたすばらしかった。傑作です。
どうもありがとうございました。
貴方のレビュー、傑作です。
感覚的に理解していても、
私にはそこまでの分析力はありませんでした。
私は貴方のレビューという作品の、一字一句を肯定し、賛美します。