「「生きねば」」風立ちぬ chintaro3さんの映画レビュー(感想・評価)
「生きねば」
・「結核で可哀そうなヒロイン」が「お涙頂戴」な手法として安易すぎて気分が悪い、という批判が出るのは、ごもっともだと思った。
・この映画の中では、主人公の泣き顔が直接描かれる事は無いし、グロいシーンも無い。宮崎駿監督の画風だと、そういうシリアスなシーンが、コミカルになりすぎるのだ。かといって、その為に全体の画風をがらっと変えたのでは、宮崎駿監督の映画では無くなってしまう。ここは困っただろうなぁ。で、そういう宮崎駿監督が不得意なシーンはカットされ、代わりに間接的に描くと言う手法があらゆる場面で採られている。
・例えば主人公が唯一泣くシーンでは、それはノートに落ちる水滴として描かれている。もし、あの時の泣き顔を宮崎駿監督の画風で直接描いて見せてしまったら、意図せずコミカルになりすぎるということが容易に想像できる。ヒロインが死ぬシーンを直接的に描かなかったのも、そういう理由だと思う。ゼロ戦に乗った兵士が死んでいくシーンを描かなかったのも。だから、この映画を見るにあたっては、宮崎駿監督が「描きたかったけど描けなかったシーン」というのを、観る側で補完して想像する事が出来ないと、意味が解らない話になってしまう。それって映画としてどうなの、っていう批判は、覚悟の上でしょう。
・そういう、映画としてテクニカルな面での批判が出るのも承知の上で、鈴木敏夫プロデューサーがこれを映画化した意味というのは、やっぱりポスターにもある「生きねば」に全て集約されるんだと思う。
・この映画を「つまらない」という人は、「生きねば」などというテーマの映画を観る必要が無かった人という事であり、幸せな人だ。それはそれで、何も問題ないではないですか。そんな人でも、いつか、この映画が必要な時が来るかもしれません。