「ジブリは好きですがこの映画は不可」風立ちぬ アリアス元大統領さんの映画レビュー(感想・評価)
ジブリは好きですがこの映画は不可
私にとって本作品の第一印象は、トレーラーにて関東大震災とその直後の混乱を極める東京の描写と、そこで流れている「まことに生きるのに辛い時代だった。」というテロップでした。そこで早くも疑問が沸きました。過酷な現実を大部分度外視したファンタジーを得意とするジブリが果たして闇を描けるのかということです。
実際に観てみると悪い予感は的中していました。主人公の堀越二郎は汽車乗車中に関東大震災に遭遇し、偶々乗り合わせていた里見菜穂子を実家に送り届けることになります。そこまではいいのですが、その後、二郎本人の生活に焦点を当てた場面が皆無なのが大問題です。銀行の取り付け騒ぎを友人と目撃する場面があるものの、彼らはまるで他人事のように眺めているだけです・・・。東京の復興についても二郎の妹である堀越加代が上京したときに、これまた自分たちには関係ないことであるかのように語っています・・・。もちろん、彼らの生活は磐石なのか、金銭的な厄介事はこれっぽっちも出てきません。挙句の果てに妹が医者になりたい旨(特にこれといった理由もなく)を言い出す始末です。
この時点であの予告編は一体何だったのかと問いたくなります。主な登場人物たちに、「まことに生きるのに辛い時代だった」という表現は全く馴染みません。
関東大震災の描写はここまでで終わりです。これまでのシーンで重要な伏線となって後半に影響を及ぼすことはありません。関東大震災がいつの間にか収まると、知らない間に二郎は三菱重工に就職が決まっており、ここから更に庶民感覚とは無縁な生活が始まります。
設計士として二郎は職務に邁進し、留学を重ねて会社において一目置かれる存在になっていきます。そして、別荘地(軽井沢とのこと)で菜穂子に再開します。二人はすぐに恋仲になり、二郎はあっけなくプロポーズまでしてしまうのですが、ここで菜穂子は自分が結核であることを告げます。ここから先はよくあるお涙頂戴の話なので割愛します・・・。
ちなみに本作の思想としては当然反戦なわけですが、登場する大日本帝国の軍部やドイツ第三帝国のドイツ人に特に酷い人物が登場するわけではありません。ヒトラー政権のことを「ならずもの」と批判する人物がいますが、この批判は個人的には浅薄だとは思いますが、一般的には妥当なところでしょう。
しかし、本人が意図したかどうかとは無関係に、主人公たちは軍需産業の人間として、軍部と癒着し、兵器を開発していたのです。それをはぐらかすようなやり口は非常に気に入りません。この映画を観ていると、技術には非がなく、使う人間が悪いという思想が垣間見えます。特に誰かを槍玉に挙げているわけではありませんが、それも主人公たち、戦闘機設計士を擁護するためのように感じざるを得ません。
この映画はこのように掴みどころがありません。極限に置かれた人間が取る必要ではあるが汚い手段は全く無視し(生活苦の描写がありません)、そして戦争に関しては脇役を使って反対の旨を主張させているくせに、その戦争に大いに加担している主人公たちには罪がないように観客に思わせてしまっています。庶民と軍部の二項対立で考えるならば、主人公は確実に後者に属しているのです。それなのに映画全編に溢れるフワフワした反戦の空気は一体何なのでしょうか。私には皆目理解できません。
えーと、貴方のおっしゃることは良く理解できました。
そういう観点から見ると、この映画はとてもよい出来だとは言えないと思いますね。
人間の人生なんて、泳げない人を湖の真ん中のボートの上から水の中に投げ入れて、さあ泳げと言うようなものです。理不尽さに満ちています。
この世の中は、基本的に不平等です。持てる者と持たざる者、富める者と貧しい者、優秀な者と劣等な者、姿形が良い者と整っていないもの、力の強いものと弱いもの。
生まれながらにしてスタートラインはまったく違うところにあるということを受け入れなければなりません。そして、時代によってその差は大きかったり、目に見えないところに隠れていたりします。
理不尽です。
しかし、社会には厳然と存在するのです。
でもね、
こう考えてみたらいかがでしょうか。
作者はもともとそのようなことをここで描きたいとは思っていなかったと。
そして、反戦思想も意図するところではなかったと。
書きたかったのは”人間の生き様”そして、”理不尽だけど精一杯生きること”、その結果意図しないことが起こるかもしれない。
でも、自分の夢を追ったシャイなやさしい男の人生ってある意味美しいでしょ...っていうようなことなんじゃないでしょうか。
人間の歴史なんてぱっと見同じような良くないことの繰り返しで耐え切れなく真っ暗だけど、よおく見てみれば、
ほらあそこのあのあたりに蛍が飛んでるでしょ。
心地よい風が吹いていますね。
という話、ただそれを美しく描きたかったんじゃないでしょうか?
だからきっと、フワフワなんですよ。
主人公の声優の文句ばかり聞こえてきますが、宮崎駿氏がこんなに反戦をオブラートに包んだ理由が解らないでいます。
狂気の世相に巻き込まれる当時の庶民は無視。
技術者としてエリートの二郎が、何を想い、なにを嘆いたか。
ラブストーリーとは別の次元で、その胸中が知りたかったですね。
少なくとも、観る者の解釈にまかせるような問題ではないでしょ?
絵の美しさは認めます。でもそれだけです。
主人公の声優の文句ばかり聞こえてきますが、宮崎駿氏がこんなに反戦をオブラートに包んだ理由が解らないでいます。
狂気の世相に巻き込まれる当時の庶民は無視。
技術者としてエリートの二郎が、何を想い、なにを嘆いたか。
ラブストーリーとは別の次元で、その胸中が知りたかったですね。
少なくとも、観る者の解釈にまかせるような問題ではないでしょ?
絵の美しさは認めます。でもそれだけです。