劇場公開日 2013年7月20日

「だだ漏れのナルシシズムが逆に清々しい」風立ちぬ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0だだ漏れのナルシシズムが逆に清々しい

2013年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

萌える

いやー宮崎駿の「紅の豚」が苦手でねえ。
主人公=宮崎駿として観ると、強烈なナルシシズム、ヒロイズムに胸焼けして。
主人公が豚っていうオブラートに包んであるから何とか耐えられるわけだが…。

他の作品も宮崎駿(おっさん)の妄想(きれいな言葉で言うなら夢とか希望とか)を、主人公の「少女」というオブラートに包んで供されてるわけで…。
エンターテインメントとしては面白いけど、若干気持ち悪いと思っていた。

で、今回は動物とか少女とかそういうオブラートもなく、素の青年が主人公なわけで。
堀越二郎(青年)=宮崎駿って、ちょっと生々し過ぎるだろう。
素の宮崎駿を受け止められるのか?
怖いもの観たさで劇場へ。

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観たらやっぱりナルシシズムは全開で。

正義感があって才能があってフランス語の詩まで理解しちゃう優しいボク。
日本は貧乏と言いながら、優雅な軽井沢のホテルにも逃避できちゃうスノッブなボク。
それでいて性格はとっても素直で朴訥なボク。
そして何より美しいものが好きなボク。

なんつうか、どこから突っ込めば良いのか?思った以上にフルスロットルなハヤオ節。
今までの作品だったらもう少し計算してスノッブ臭を消すとかしてた訳だが、そんな小手先のごまかしもなく。
ナルシシズムのだだ漏れもここまでくれば立派なのかも。
逃げも隠れもせんと仁王立ちした宮崎駿が見えてくるようで。
なんの臆面もなくさらけ出すその様は、逆に清々しい。

そう、清々しいんですよ、この映画。脳内妄想だだ漏れ過ぎて。

そして賛否両論ある庵野氏の声。
観る前までは、庵野氏以外のキャスティングが巧い俳優ばかりで、何この罰ケーム?と思っていたわけだが。
ある意味、庵野氏の棒読み感がとても良かった。
巧い声優さんが堀越役だったら、生々しすぎて、もっと鼻持ちならない感じになっていたかも。
庵野氏の稚拙さが一種のオブラートになっていたような。
理系男子萌え的な仕上がりになったのも、庵野氏の功績といったら褒め過ぎか…。

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各パートごとにタッチの違う映像は、やはりさすがとしか言いようがない。
特にドイツパートの硬く精巧な感じが素晴らしい。オイルヒーターまで美しく描かれて個人的にはツボだった。
対照的な夢パートは昔のアニメ風で牧歌的、これも良かった。

そして菜穂子パート。
今時、結核堀辰雄なんていうベタなテーマを取り上げて許されるのも宮崎駿くらいなもんだろうと思うんだが。
それでもベタな展開、ベタな風の表現に思わずグっときてしまう。宮崎駿の強引な力技、見せてもらったような気がする。

個人的には、宮崎駿の世界観・思想は好きではないし相容れない。
嫌いなものでも、ここまで全力直球勝負で来られると、逆に好感、清々しい。

小二郎