劇場公開日 2013年7月20日

「愛、夢、飛行機、生きる意味…宮崎駿の心を感じた」風立ちぬ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0愛、夢、飛行機、生きる意味…宮崎駿の心を感じた

2013年7月18日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

幸せ

宮崎駿。
新作を作れば100億を超えるメガヒット。作品も支持され、まさに国民的映画監督。
しかしその分、観客の期待は厳しいほど高い。毎回毎回過去作品と比べられ、気の毒でもある。映画監督にとって、過去作品と比べられるほど嫌なものはない。
前作「崖の上のポニョ」は、歌もキャラデザインも観客に媚びている気がしてあまり好きになれなかった。(つまらなくはないが)
宮崎もそろそろ…と最近よく聞くが、それでもやはり新作は期待してしまう。
そして5年振りとなるその最新作は…

同時代を生きた零戦設計者・堀越二郎と文学者・堀辰雄。二人の実在の人物をモデルにした主人公の物語。
まず、ファンタジーではない所に興味惹かれた。
得意分野を離れ、実在の人物を主人公とし、現実をどう描くのか。
宮崎作品としては異色ながら、宮崎作品の精神は息づいていた。空、飛行機、夢、ロマンス、生きる意味…。
ヒューマンドラマでありながら何処となくファンタジックな味わいも感じさせ、夢の中でカプローニと会うシーンなどは巧い。

また、観客に考えを委ねる演出も印象的だった。
自分の作った夢が戦争の兵器として使われる。その苦悩は当然あったハズだが、抑えて描いて観客に感じさせる。
菜穂子との死別も直接的に描いた訳ではないが、ラストシーンでそれと感じさせる。
説明過多より“見る”醍醐味がある。

主人公、二郎の人物像がイイ。
勤勉で実直。菜穂子への愛の伝え方やプロポーズもストレート。
自分の夢が戦争の兵器として使われると分かっていても、“美しい飛行機”を作りたいとただひたすら夢を追いかける。
真面目でロマンチストな好青年。
庵野サンの声は上手いか下手かは別として、徐々に馴染んできた。

いつもの宮崎の作品を期待すると肩透かしは食らうだろう。
ファンタジーでもないし、冒険も無いし、ユニークなキャラクターも出てこない。
飛行機作りの専門的な話や異例の複数回のキスシーンなど、大人向けの作品であって、子供には退屈に感じるかもしれない。
でも、アニメ=子供が見るもの、という考え方自体、嫌いだ。大人が見るアニメがあったってイイ。

躍動感には欠けるが、主人公の愛と夢をじっくり堪能。
大傑作!…とまでは言わないが、上質な佳作。
宮崎駿の心を感じられた。

近大